衣類の虫食い穴防ぐ 害虫対策、暖かくなる前に
お気に入りの衣類に、虫食いの穴が開いてしまったらがっかりだ。二十四節気で虫が動き出すとされる「啓蟄(けいちつ)」はもうすぐ。虫たちが活動を始める前に対策しよう。
家にいて困る虫といえば一般的にゴキブリやダニが挙げられ、実害は小さくないにもかかわらず「衣類害虫」の類いはあまり知られていない。衣類害虫とは文字通り衣類を害する(食べる)虫のことであり、食害された衣類には特徴的な穴が開く。セーターなどはほつれたように見えるため、「どこかで引っかけたかな」などと勘違いして、被害に気づかないこともある。衣類害虫の存在は知っていても、実物は見たことがないという人は多いのではないだろうか。
私たちの身の回りにいる主な衣類害虫にはイガ、コイガとヒメカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシの4種類がある。いずれも成虫が家の中に入り込み、産卵、幼虫の時期に衣類を食べる。イガ、コイガの成虫は5~10ミリメートル程度の小さなガ、ヒメカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシの成虫は2~5ミリメートル程度の小さな甲虫といった地味な外見だ。一見しても衣類を害する虫であるように見えないため、家の中に入り込んできても見過ごされやすい。
幼虫時代のイガ、コイガは白色、ヒメカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシはやや褐色のイモムシ状で、いずれも5~10ミリメートル程度と裸眼でも見える大きさだ。だが、ちぎれた輪ゴムのようにも見え、判別しにくい。イガ、コイガの幼虫時代は1~2カ月ほどだが、カツオブシムシ類のほうは10カ月近くと長い。越冬もするうえ、栄養状況によっては2~3年もの間幼虫のままでいるという。脱皮した殻だけが発見されることもある。
これらの衣類害虫は、そもそもは家の外のどこかから入ってきて害を及ぼすわけだが、その走りが春先となる。イガ、コイガの成虫は屋外に干した洗濯物や、外出時の衣類に付いて、カツオブシムシ類の成虫はキク科の切り花などに付いて家の中に侵入することが多いと見られている。害虫と聞いてイメージする「不潔さ」には、発生が左右されない点に注意したい。
気づかぬうちに家の中に入り込み、今まさに幼虫になっているかもしれない衣類害虫。対策は何だろう。まずは気温が15度を超えると虫は活発化するので、気温が低いうちに衣類の収納部、クローゼットやタンスの隅などにたまったホコリを除去しよう。いわゆる綿ボコリは、衣類害虫の好む「繊維のかたまり」であり、その中に幼虫が潜んでいることも多いからだ。
衣類害虫が好むのは動物繊維だ。ウール(羊毛)やカシミヤ、シルク(絹)、ファー(毛皮)など、冬物の衣類に多い。とはいえ、これらの衣類が本格的に「食べられる」のは、着用している冬ではなく、衣替えで収納した後の春から夏にかけてである。
注意しなければいけないのは、コットン(綿)やリネン(麻)などの植物繊維、またポリエステルなどの化学繊維でも、汗や食べこぼし汚れの付いた部分は好んで食べられる(幼虫の栄養になる)ということだ。動物繊維に汚れが残っている場合は、言うまでもなく狙い撃ちに遭う。ウールなどの冬物衣類は、日常的に着用しているうちから先々の汚れの対処、クリーニングの予定を立てておきたい。
衣替えの際には可能な限り「洗濯・乾燥」する。洗濯絵表示を確認し、水洗いが可能なら衣類用中性洗剤を用いて家庭で洗濯する。ドライクリーニングが必須の場合には外注する。いずれも汗や皮脂などによる汚れ、シミなどをしっかり落として乾燥させたのちに、衣類用防虫剤とともに保管するようにしたい。
収納した衣類には「ダニ」が発生することもある。ダニは羊毛や綿など素材を問わず、気温が程よく高く、暗く湿り気のある環境では容易に増えてしまうので要注意だ。一般的な衣類用防虫剤にはダニへの効果はないので、防ぐためには、衣類の保管前に保管場所を揮発性の高い消毒用アルコールでしっかり拭き、その場にいるダニやホコリ汚れを残さないようにすることが大切だ。また、保管場所の湿気が高くならないよう、衣類の湿気をしっかり抜いてからしまうようにしたい。
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防ダニのグッズ活用も
通常の防虫剤ではダニの発生・繁殖を防げないが、防ダニ効果をうたう洗濯用洗剤や柔軟剤などが市販されている。綿、麻といった植物繊維や化学繊維など、洗濯できる衣類は、季節の終わりに収納する前にこうした洗剤で仕上げておくのは一つの手だ。
すでにダニが生息している場合、洗濯だけで死滅させるのは難しい。ダニ繁殖の懸念がある衣類は乾燥機かアイロンでしっかり加熱乾燥させてから収納したい。市販のダニ捕りマット類を収納の最下層暗部に仕込んでおく方法も、生きているダニには効果がある。
(住生活ジャーナリスト 藤原 千秋)
[NIKKEI プラス1 2022年2月19日付]
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