ひらめきブックレビュー

すべての人が持つ「人権」 企業はどう対応すべきか 『人権尊重の経営』

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「人権」という言葉にどのようなイメージを抱くだろうか。多くの人は女性や、障害者、性的少数者(LGBT)といったマイノリティー(少数派)の人々を差別や偏見から守る権利と捉えているかもしれない。しかし、人権はマイノリティーだけのものではない。現在は「人が生まれながらにして持っている自由や平等・幸福追求の権利」という自然権の考え方が国際的にほぼ定着している。「すべての人」が有する権利だということを改めて認識すべきだろう。

本書『人権尊重の経営』は、人権尊重にまつわる課題に企業としてどう取り組むべきかについて、国内外の豊富な事例とともに詳しく解説している。著者の櫻井洋介氏は三菱UFJリサーチ&コンサルティングのサステナビリティ戦略部シニアマネージャーである。

「企業の人権尊重」と聞いても、どこか漠然としていて「働く人の人権かな」などと思う人が大半だろう。本書では社内の労働者に関する言及もあるが、主にグローバル化を前提とした、あらゆるステークホルダー(利害関係者)に対する人権の尊重、配慮について書かれている。具体的には、サプライチェーン(供給網)のどこかの企業で、15歳未満の労働と18歳未満の危険で有害な労働といった児童労働が発生しているとすれば、それは即座に発見・対応すべき人権問題だ。

■国際的な「指導原則」も

ビジネスのグローバル化に伴い、人権尊重の国際ルールが必要となったが、今のところ国際社会は、罰則や制裁を含む法的拘束力のある「ハードロー」ではなく、法的拘束力を持たない「ソフトロー」による規律を試みている。ソフトローの中で最も受け入れられているのが「ビジネスと人権に関する指導原則」という、2011年の国連人権理事会において全会一致で支持された国際文書である。

この文書は、(1)国家の人権保護義務(2)企業の人権尊重責任(3)救済へのアクセス――の3本柱で構成されている。その中心となる(2)の中には「企業に求められる3つの取り組み(人権方針の策定、人権デュー・ディリジェンスの実践、苦情処理メカニズムの構築)」が紹介されており、本書はそれぞれについて具体的かつ詳細に手順を解説している。

■人権尊重のために上場廃止したリーバイス

企業における人権尊重の取り組みの中では、米ジーンズ大手のリーバイ・ストラウスの事例が興味深い。同社は1971年に株式の上場を果たしたが、その後、創業一族による買い戻しで上場を廃止した(2019年に再上場)。サプライチェーン上で児童労働が横行する事態に対応しようとしたところ、株主利益に反すると批判が相次いだため、経営陣が「社会的責任を果たすために株主利益に左右されない会社にならねばならない」として上場廃止を決意したという。

本書を読み、ビジネスにおける人権尊重の現状と課題を知った上で、自分が勤める会社、あるいは自分自身が人権についてどのように考え、行動しているかを省みてはいかがだろうか。

今回の評者 = 吉川 清史
情報工場SERENDIP編集部チーフエディター。8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」の選書、コンテンツ制作・編集に携わる。大学受験雑誌・書籍の編集者、高等教育専門誌編集長などを経て07年から現職。東京都出身。早大卒。

【お知らせ】「ひらめきブックレビュー」は2023年3月から日経BizGateに掲載します。

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