平準化にあらがう

――日本の建築家個人の事務所としては最大規模です。手本としている組織や団体はありますか。

「うーん、反面教師としているところならありますね。大きな設計事務所の最大の問題は、プロジェクトの採算管理の仕方ではないかと、近年、痛感しています」

「いまや人件費や建材のコストなどをコンピューターで瞬時に管理し、赤字になっていないか厳密にチェックできるようになった。そうすると、どうなるか。事務所は黒字が見込める仕事しか受けなくなるでしょう」

「効率のいい大きな仕事だけやるようになって、そういう仕事を得意とする人間しか雇わなくなる。ムダに手をかけず、利益のためだけに効率よく仕事した人が出世していく。イヤ~な雰囲気になると思いませんか」

「そういう流れが、日本の社会をものすごく硬直化させています。例えば、赤字だけど面白い建築をつくったとしましょう。それは働くみんなの自慢になるし、会社の財産として、ヒストリーにもなります」

「すべてをデータ化しようという発想には慎重でありたいと思います。下手をすると世の中のクリエイティビティーを殺してしまう。手を抜くのが善という文化にもなりかねない。最終的、長期的に見れば、経済的価値を下げる可能性があります。平準化にあらがう姿勢は、つねに持ち続けたいですね」

(編集委員 窪田直子)

バブル後の「逆境」転機に
くま・けんご 1954年神奈川県生まれ。東京大学大学院修了。日本設計事務所(現・日本設計)勤務、米コロンビア大客員研究員などを経て、90年、隈研吾建築都市設計事務所を設立。初期作「M2」で脚光を浴びるが、バブル経済の破綻で仕事が途絶える。
 10年近い地方での仕事を通じて木や石などの素材を再発見し、独自の作風を確立。巨大な公共建築から小屋の開発まで多種多様な作品を世に送り出す。「10宅論」「建築的欲望の終焉(しゅうえん)」ほか著書多数。
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最近、シェフやデザイナーたちのリーダーとしての才能に注目しています。彼らは多数の人たちと協働しながら創造性を高め、社会や環境とのかかわりも深い。組織論としても学ぶことが多い。

[日本経済新聞夕刊 2023年1月19日付]

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