オープンソースを駆使した調査手法

従来のジャーナリズムは情報源の秘匿が鉄則とされてきた。ベリングキャットはその逆で、情報源をオープンにして誰でも検証可能とするネット界の流儀で活動する。

14年にウクライナで発生したマレーシア航空17便撃墜事件では、使用されたミサイル発射機の特定に動いた。武器オタクのサイト、ロシア軍兵士のソーシャルメディアの投稿、地元住民の車載カメラ映像などネット上の情報をかき集め、それらをグーグルアースなどと照合し、問題のミサイル発射機が撮影された場所を次々に特定。その進軍ルートや時刻といった軍事機密まで丸裸にしてしまう。

ロシアの暗殺班のメンバーの身元追跡プロジェクトも圧巻だ。関係者のソーシャルメディアや車両登録の流出データベースなどを元に偽造だらけの情報から身元を特定し、本人に電話までかけて証拠を探る。緊迫感あふれる描写はまるでスパイ小説のようだ。

驚くことに、ベリングキャットの組織規模はネットで知り合った中核メンバー18人と数十人のボランティアという。小さなアマチュア集団が独裁国家の鼻を明かす物語には、ジャイアントキリング(大物食い)の痛快さがある。

だが、ヒギンズ氏が強調するように、あくまでノンポリに徹して「事実の切れ端」を黙々と集める方法が彼らの成功の源泉だ。掲げるのは正義の追求ではなく、ファクトの追求である。フェイクニュースや陰謀論だらけの混沌とした情報環境の中、私たちが進む道を見いだす上で彼らの超然とした態度こそが真に学ぶべきものではないだろうか。

今週の評者 = 戎橋 昌之
情報工場エディター。元官僚で、現在は官公庁向けコンサルタントとして働く傍ら、8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」のエディターとしても活動。大阪府出身。東大卒。

ベリングキャット ――デジタルハンター、国家の嘘を暴く

著者 : エリオット・ヒギンズ
出版 : 筑摩書房
価格 : 2,090 円(税込み)