
ラタトゥイユやカポナータといった料理をつくる場合はナスなどの野菜をそれぞれ多めの油で炒め揚げにしてから、トマトや調味料と合わせてサッと煮る。具材ごとの色が鮮やかで、存在感のある仕上がりになる。
ナスは味噌汁に入れてもおいしいが、炒め揚げにして使えば汁が濁らず、皮の色も鮮やかだ。鍋に多めの油を熱してナスを炒めた後、キッチンペーパーで余分な油を拭き取ってだしを加え、味噌を溶き入れれば鍋ひとつで完成だ。
さらに油の量を抑えたい場合、表面に油をまぶしてから電子レンジで加熱する方法もある。揚げたり、炒め揚げにしたりした場合ほどではないが、色素流出が抑えられる。
油をまぶすにはポリ袋を使うと簡単だ。切ったナスと油を袋に入れ、風船のように中に空気の入った状態で口を手で握って閉じる。よく振れば表面に満遍なく油がなじむ。
素揚げ、炒め揚げ、油をまぶして電子レンジ加熱の順で油の使用量が多く、色落ちしにくい。目的や好みに応じて使い分けてほしい。
話が戻るが、ナスを切ったら水にさらすことが多い。断面の変色を抑え、渋みの原因となるアクを抜くためだ。切って放置すると、ナスに含まれるポリフェノールという成分が酸化され、褐色の成分に変化する。変色を防ぐには酸化に関わる酵素の働きを抑えたり、酸素を遮断したりする必要がある。手軽なのが水につけて空気、つまり酸素に極力触れさせない方法だ。酵素の働きが抑えられるので塩水を使うときもある。
ただしナスを揚げるなどする場合、必ずしも水につけておく必要はないだろう。揚げれば渋みは感じにくいし、切ってすぐ加熱すれば変色しにくいからだ。水につけておいて揚げると、油はねしやすくなる。加熱直前に切り、水につけずにすぐ揚げよう。実践してみてほしい。
◇ ◇ ◇
ガリは甘酢でピンクに変色

アントシアニンという色素は酸性で赤や赤紫に、アルカリ性で青や緑に変色する性質がある。とりわけ酸性にした際の鮮やかな色は料理に彩りを添えるためによく利用されている。例えば梅干しづくりに使われる赤しその汁はそのままでは暗い紫だが、梅に含まれるクエン酸によって鮮やかな赤紫に変わる。
すしに添えられる「ガリ」のピンクもアントシアニンの色だ。材料となる新生姜は通常は薄いクリーム色をしているが、甘酢に漬けると、淡いピンクに変わる。野菜の色について知るのも楽しい。
(科学する料理研究家 平松 サリー)
[NIKKEI プラス1 2022年6月18日付]