ひらめきブックレビュー

預金者が間接的に社会貢献 新しい金融のかたち 『Just Money―未来から求められる金融』

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日本では成人の100%近くが金融機関に預金口座を保有している。だが、自分が預けたお金を銀行がどのように使っているのかを把握している人はどれくらいいるだろうか。銀行の投融資先については無関心という人がほとんどではないかと思う。

オランダのトリオドス銀行は、ウェブサイトとアプリで同行のすべての法人顧客名をオープンにしているそうだ。自分が預けたお金がどの企業に融資されるのかがわかる仕組みになっているわけだ。

トリオドス銀行は社会的課題や環境問題の解決をめざす事業やプロジェクトに投融資を行う金融機関だ。同行のように金融を社会や環境の課題に取り組むための手段として用いる金融機関を「ジャスト・バンキング」と名付け、世界中の具体例を紹介しながら現状と展望を論じるのが本書『Just Money―未来から求められる金融』(江上広行監訳、大濱匠一訳)だ。

著者のカトリン・カウファー氏は米マサチューセッツ工科大学(MIT)都市研究計画学部コミュニティ・イノベーターズ・ラボのJust Moneyプログラムディレクターおよびプレゼンシング・インスティテュートのエグゼクティブ・ディレクター。リリアン・ステポネイティス氏は、米セルフ・ヘルプ連邦信用組合の特別プロジェクトマネジャーである。

■組織の目的を「利益追求」に置かない

ジャスト・バンキングの「just」には「fair(正しい、公正な)」と「only(ほんの…にすぎない)」という2つの意味がある。これらを合わせて「金融とは人々の幸福のための単なる道具にすぎない」という思想を表しているという。社会を良くするための道具としてお金を用いるのであり、金融はお金がお金を生む仕組みではない、ということだ。

この思想はジャスト・バンキングの「利益」に対する考え方に関わってくる。ジャスト・バンキングは組織の目的を利益追求に置かない。目的はあくまで金融(投融資)を通じた環境や社会的課題への取り組み支援であり、利益は事業を継続させるための手段の1つなのだという。

利益の再定義に従い、ジャスト・バンキングでは、組織の運営方法、提供する商品やサービスの種類、成果の測定方法などを従来の金融機関とは異なるものにしていかなければならない。組織のあり方が根本から変わってくるのだ。

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