ひらめきブックレビュー

なぜ叱ってはいけないか 脳科学の見地から弊害を検証 『<叱る依存>がとまらない』

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

「その仕事、まだ終わらないの?」という部下への小言。あるいは「早く片づけなさい」という子どもへの叱責――。誰かを叱った経験をもつ方は多いだろう。が、この「叱る」という行為の効果は実は限定的で弊害が大きいのだという。

本書「<叱る依存>がとまらない」は、なぜ人は叱るのか、さらに叱るという行為が持つ依存性などについて脳科学の見地から紹介している。叱らずにいられない個人や教育現場、社会に警鐘を鳴らす。著者の村中直人氏は臨床心理士・公認心理師で、一般社団法人子ども・青少年育成支援協会代表理事などを務める。

■叱ることで満たされる「欲求」

昨今、パワハラや家庭内暴力、運動部の体罰など「叱る」にまつわる否定的な声は多い。しかし、心の底では「叱られてこそ強くなる」「叱らなければ勝てない」など、「叱る」を正当化したい気持ちを捨てきれない人もいるのではないだろうか。しかし、本書は論理的かつ科学的に「叱る」効果が薄いことを示している。

著者によれば、叱られた人は恐怖を回避するための行動をとる。具体的には、「宿題をしなさい!」と叱られた子どもは、それ以上叱られないために宿題をする。恐怖の回避を優先し、深く考えない。つまり、宿題をすべきだと学んだからするわけではない。一方、叱る人は子どもがすぐに宿題にとりかかるので「学んでくれた」と誤解する。

恐ろしいのは、叱ると人の脳内に快感をもたらすとされるドーパミンが放出されることだ。しかも、人間には悪いことをした人に罰を与えようとする「処罰欲求」が備わっており、叱る行為はこの欲求を満たす。さらに、「馴化(じゅんか=慣れること)」によって叱られる人の反応は鈍くなり、叱る人の欲求は満たされにくくなる。結果として「叱る」はエスカレートし、虐待やパワハラにつながっていく。

こうして発生する「叱る依存」は他人事ではないだろう。日ごろ子どもを叱る自分が、処罰欲求を満たしているのかと思うとぞっとする。

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。