アウディe-tron GT EV時代の新フラッグシップ
2026年以降に投入する新型車はすべて電気自動車(BEV)とすることを明言しているアウディ。日本にも「e-tron/e-tronスポーツバック」に続いて「e-tron GT」を送り込んできた。ポルシェとの共同開発によって生み出された4ドアクーペの実力やいかに!?
低く幅広いシルエット
コロナウイルスの気配さえなかった3年前の夏、アムステルダムから北京まで古いボルボでシルクロードをたどる旅の途中で宿泊したトルファンのホテルの駐車場にはびっくりするような光景が広がっていた。中国メーカーだけでなく、さまざまなブランドのテスト車両がほとんど偽装もなしにびっしり止まっていたのだ。今やデスバレーではなく新疆(しんきょう)ウイグル自治区がヒートテストの中心地になっているのだという。アウディの各種「e-tron」も数多く止まっていたが、その奥に数台だけ厳重にカバーされた、明らかに低くワイドなシルエットのクルマがあった。その数カ月後、2018年末のロサンゼルスショーで初公開されることになるe-tron GTである。アウディの電動車ラインナップの頂点に位置するe-tron GTは2021年春に国内でも発表されていたが、ようやく実車を公道で試乗する機会が巡ってきた。
他のSUV系e-tronとは異なり、e-tron GTは「ポルシェ・タイカン」とともに「J1」と呼ばれる専用プラットフォームを採用したBEVスポーツカーである。ほとんど5mの全長はタイカンよりわずかに長いが、2900mmのホイールベースはタイカンと同一だ。低く幅広く、しかもアウディらしくパキッと折り目正しいスタイルは迫力満点、巨大なホイールを強調したデザインも相まっていかにもスーパースポーツカー然としている。タイカンは最近追加された後輪駆動のスタンダードモデルのほかに、前後アクスル各1基のモーターを備えた4WDの「4S」と「ターボ」、そして「ターボS」がラインアップされるが、e-tron GTと高性能版「RS e-tron GT」はどちらも前後2基のモーターによる「クワトロ」である。
タイカンとどこが違うか
e-tron GTは駆動用リチウムイオンバッテリーや800Vシステムをはじめとして、共同開発したポルシェのタイカンと基本的なランニングシャシーを共用するが、細部のスペックは当然ながら微妙に異なる。e-tron GTはどちらの仕様も駆動用バッテリーの総電力量は93.4kWhで、これはポルシェで言うところの「パフォーマンスバッテリープラス」と同一だ(タイカンの標準仕様「パフォーマンスバッテリー」は79.2kWh)。タイカン同様、左右フロントフェンダー部分にはCHAdeMO対応のDC急速充電ポートとAC普通充電ポートが設けられており、一充電当たりの航続距離はe-tron GT、RS e-tron GTともWLTCモードで534㎞と発表されている。車両は150kWまでの急速充電に対応しており、最近少しずつ増えてきた90kW器の場合は30分で約250km分を充電できるという。
2基のモーターを合わせた最高出力はRS e-tron GTで475kW(646PS)、e-tron GTは390kW(530PS)とされている。ちなみにこの数値はローンチコントロール使用のオーバーブースト時のもので、通常時の最高出力は440kWと350kWである。同じく最大トルクは830N・mと640N・mと発表されている。車重は2.3t前後だが、オーバーブースト時の0-100km/h加速はRS e-tron GTが3.3秒、e-tron GTは4.1秒、最高速はBEVとしては異例のそれぞれ250km/hと245km/hに達するという。参考までにタイカンの最高性能版ターボSの0-100km/h加速は2.8秒、最高速は260km/hである。e-tron GTもタイカンと同じくリアのみ2段ギアボックスを装備する。
こちらはシフトパドル付き
フルデジタルメーターのバーチャルコックピットをはじめ、インストゥルメントパネルやインテリアの仕立ては最新アウディと共通しており、簡潔で美しく隙がない。意図的なものか、あるいは設計年次のせいかは知らないが、他のアウディよりも空調コントロールなど物理スイッチが多く残されているように感じられたが、もちろんオヤジ世代にとってはそのほうが使いやすくありがたい。
特徴的なのは、シフトパドルの備えがないタイカンとは異なり、回生ブレーキのレベル(3段階)を変えるシフトパドルが装備されていること。タイカンの場合はドライブモードを「スポーツ」に切り替えるか、ステアリングホイールの左スポークに備わる小さなアクセラレーターボタンで選ぶようになっていた。とはいえGTを名乗るだけあって、e-tron GTもやはりコースティング優先のようで、基本的にはアクセルペダルを戻しても前方から見えない手に引っ張られるようにスーッと惰性走行する。減速したい場合はフットブレーキを使うのが原則というわけだが、実際にはペダルを踏んでもその9割を回生ブレーキで賄っているという。オプションでタングステンカーバイドコーティングのローターが設定されているのはそれを見越したさび止めのためでもあるのだろう。
e-tron GTのリアシートは3人掛けで定員は5人(タイカンは4人乗りが標準で4+1シートはオプション)となる。ルーフが低いせいで乗り降りする際にはかもいに頭をぶつけないように注意が必要だが、いったん収まってしまえば予想以上に快適だ。ヘッドルームの余裕はあまりなく、ルーミーというほどでもないが、バッテリーの形状を工夫してリアシートの足元がえぐれているおかげで、自然な着座姿勢をとることができる。
値段に見合う完成度
さすがに最近ではモーターとバッテリーさえあれば、誰でも自動車をつくれる時代がやって来たというような乱暴な意見は目にしなくなったが、このe-tron GTやタイカンに乗ると、むしろBEVのほうが完成度の違いが顕著に表れるのではないかという気がする。
BEVやプラグインハイブリッド車はどうしてもバッテリーの重さのせいで、荒れた路面ではブルブルとした振動やピッチングが残るクルマもあるが、e-tron GTはラフなそぶりは一切見せない。特にアダプティブエアサスペンションを備えるRS e-tron GTは、速度を問わず、路面を問わずほぼ完璧にしなやかでフラットな姿勢を保つ。金属スプリングに可変ダンパーを装備するスタンダードなe-tron GTも文句なしのレベルだが、さすがに舗装の荒れた一般道などでは明確な突き上げを感じることもあった。RS e-tron GTにはオプションのオールホイールステアリングも装備されていたが、山道でもまったく顎を出さないどころか、ぴたりと路面に張り付いて舗装面を削り取るように加速する。タイカンの4WDもそうだったが、4輪が個別に目いっぱい仕事をしているような、あるいは常にベクタリングが効いているような切れ味抜群のハンドリングは、人によっては違和感を覚えるかもしれないと思うほどだ。
これだけのタフなシャシーと緻密で洗練された制御を見せつけられると、高いなどとは決して口にできない。BEVでもエンジン車でも自動車としての完成度は千差万別、と当たり前のことをあらためて突き付けられた思いである。
(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
アウディe-tron GTクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4990×1965×1415mm
ホイールベース:2900mm
車重:2290kg
駆動方式:4WD
モーター:永久磁石同期式電動モーター
フロントモーター最高出力:238PS(175kW)
フロントモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
リアモーター最高出力:435PS(320kW)
リアモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
システム最高出力:530PS(390kW)
システム最大トルク:640N・m(65.3kgf・m)
タイヤ:(前)245/45R20 130Y XL/(後)285/40R20 108Y XL(ピレリ・チントゥラートP7)
一充電最大走行可能距離:534km(WLTCモード)
価格:1399万円/テスト車=1557万円
オプション装備:レザーフリーパッケージ<インテリアエレメンツ[アーティフィシャルレザー×ダイナミカ]+カスケードクロス×アーティフィシャルレザー+スポーツシートプラス[フロント]+フラットボトムステアリングホイール[アルカンターラ]>(30万円)/5スポークエアロモジュールブラックアルミホイール<フロント9.0J×20、リア11.0J×20>+フロント245/45R20&リア285/40R20タイヤ(16万円)/ウォールナットデコラティブパネル<ナチュラルグレーブラウン>(10万円)/タングステンカーバイドコーティングブレーキ<レッドブレーキキャリパー>(35万円)/テクノロジーパッケージ<マトリクスLEDヘッドライト+アウディレーザーライト+Bang & Olufsenプレミアムサウンドシステム[16スピーカー]+アコースティックガラス+プライバシーガラス+e-tronスポーツサウンド+フロントシートヒーター+ワイヤレスチャージング>(67万円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:854km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh
アウディRS e-tron GT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4990×1965×1395mm
ホイールベース:2900mm
車重:2290kg
駆動方式:4WD
モーター:永久磁石同期式電動モーター
フロントモーター最高出力:238PS(175kW)
フロントモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
リアモーター最高出力:455PS(335kW)
リアモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
システム最高出力:646PS(475kW)
システム最大トルク:830N・m(84.6kgf・m)
タイヤ:(前)265/35R21 101Y/(後)305/30R21 104Y XL(グッドイヤー・イーグルF1アシメトリック5)
一充電最大走行可能距離:534km(WLTCモード)
価格:1799万円/テスト車=2063万円
オプション装備:RSレッドデザインパッケージ<スポーツシートプロ[フロント]+パーフォレーテッドレザー×ファインナッパレザー+インテリアエレメンツ[ファインナッパレザー×ダイナミカ]+ステアリングホイール[エクスプレスレッドステッチ]+レッドシートベルト+フロアマット[エクスプレスレッドステッチ]+シートベンチレーション[フロント]>(40万円)/5スポークコンケーブモジュールブラックアルミホイール<フロント9.5J×21、リア11.5J×21>+フロント265/35R21&リア305/30R21タイヤ(26万円)/カーボンパッケージ<カーボンルーフ+カーボン×ブラックスタイリングパッケージ+カーボンエクステリアミラーハウジング+ブラックAudiリングス+カーボンツイルマットデコラティブパネル+カーボンドアシルトリム>(129万円)/ダイナミックパッケージプラス<オールホイールステアリング+プログレッシブステアリングプラス>(21万円)/タングステンカーバイドコーティングブレーキ<レッドブレーキキャリパー>(7万円)/テクノロジーパッケージ<アウディレーザーライト+アコースティックガラス+プライバシーガラス+e-tronスポーツサウンド+ワイヤレスチャージング>(41万円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1250km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh
[webCG 2021年11月3日付の記事を再構成]
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