市場にあまり出回らず、大半が廃棄されてしまうという「未利用魚」を活用して、旬の魚のミールパックを毎月届けるサブスクリプションサービス「フィシュル」が注目を集めている。どのようにこのビジネスモデルにたどり着いたのか、運営会社のベンナーズ(福岡市)に話を聞いた。

30日ごとに届くフィシュルのおまかせ便。ミールパックの数が選択でき、1~2人用の「6パックおまかせ便」は税込4200円(送料別)
30日ごとに届くフィシュルのおまかせ便。ミールパックの数が選択でき、1~2人用の「6パックおまかせ便」は税込み4200円(送料別)

 野菜や魚介類などを産地から直送するサービスが活況だ。そんな中、九州の未利用魚を活用して、ミールパックを製造するスタートアップ・ベンナーズが注目を集めている。毎月一度、旬の魚のミールパックを届けるサブスクリプションサービス・フィシュルを展開し、2022年1月から月の売上高を6倍に、会員数は7倍に急拡大。水産加工業でSDGs(持続可能な開発目標)に真正面から挑む取り組みは注目度が高い。

 未利用魚とは、サイズが規格外だったり、一般に知られていないことで買われなかったりという理由から、市場にあまり出回らず、大半は廃棄されてしまう魚のことだ。この未利用魚の存在に着目したのが、27歳のベンナーズ代表・井口剛志氏だった。福岡県出身で祖父が水産加工業、父が魚の卸売業を営み、「幼い頃から魚が身近だった」という同氏が、水産加工業界での起業を志したのは、留学先の米ボストン大学3年生の時。「留学前から社会貢献できる分野で起業したいと考えていたが、分野を絞り切れずにいた。起業学の授業で、『レガシーマーケットは生産性も成長性も低いと見なされがちだが、新しいアイデアやテクノロジーを導入して変革すれば、競合相手が少ない分、成功確率が高まる』と学び、課題だらけながら、自分にとって身近な水産加工業界で起業しようと決意が固まった」(同)

 18年、卒業と同時に帰国し、地元の漁業関係者にヒアリングを実施。「未利用魚の割合は、日本の総水揚げ量の3~4割。もったいないだけでなく、平均200万円とされる漁師の年収の底上げを阻む障壁にもなっている。この社会課題の解決を会社のミッションに据えようと決めた」(同)

 18年にベンナーズを設立すると、福岡の魚生産者とバイヤーをマッチングするBtoBプラットフォームを構築。福岡の志賀島周辺でとれた未利用魚を直送するサービスを19年10月から開始した。だが、その矢先の20年2月、新型コロナウイルス感染症が一気に拡大。主要な売り先だった外食産業が営業休止などに追い込まれる中、新たな販路として浮かんだのが一般家庭だった。「今後、家庭での食の充実が求められるのは確実。なじみの薄い未利用魚でも、現代のライフスタイルや嗜好に合った形に加工調理すればきっと受け入れられる。水産業界の長年の懸案である一般家庭の魚離れも解決でき、一石二鳥だと考えた」(同)

 そこで、そもそも加工した未利用魚を冷凍パックにし、届けるサービスに需要があるのかを知るため、20年6月から9月にかけてクラウドファンディングを実施。調味料で下味をつけた“下味キット”や鮮魚ボックスなどのリターンを打ち出すと、約400人が集まり、目標の107%に当たる400万円余りの売り上げを達成した。「魚は食べたいが、さばく時間も技術もない人向けに、味のバリエーションが豊富な半加工済みのミールパックとして提供しようと決心した」(同)。リブランディングと試験販売を経て、21年3月にフィシュルのサービスを正式に始動。以来、業績は右肩上がりに上昇し、登録者は約3000人、月の売り上げはおよそ1500万円(ともに22年9月時点)となっている。

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