アナン氏が変えた国連の役割
「翌2000年7月、企業が社会の責任ある一員として、人権や労働、環境などの普遍的な価値基準を守ると宣言する『国連グローバル・コンパクト』が採択されました。また、貧困や飢餓の撲滅など8つの目標を掲げたミレニアム開発目標(MDGs)も同年の国連総会で採択されました。15年採択の持続可能な開発目標(SDGs)につながる取り組みです」
「私がかかわっていた金融界に、新しい投資哲学を持ち込んだのも彼です。06年に環境や社会全体に利益をもたらす持続可能な金融システムの達成を目指す責任投資原則(PRI)を提唱しました。今でこそESG(環境・社会・企業統治)投資について誰もが語りますが、UNEP・FIがESGという言葉を使い始めたのもこのころです」

「国連事務総長は各国の大臣などの経験者が就任することが多いですが、アナン氏は国連職員から事務総長に選出された唯一無二の人物です」
――アナン氏はガーナ出身で、01年に国連とともにノーベル平和賞を受賞しました。
「裏話を耳にしたことがあります。アナン氏がダボス会議でビジネスリーダーたちと話したいと考えた時、周囲のスタッフの中にはやめるように求める声があったといいます。国連で貧困や環境問題に取り組んでいる人たちからみれば、ビッグビジネスは問題を起こした元凶です。『悪魔のような人たちと手を握るのか』と言っていさめた人もいたようです。しかしアナン氏はそうした声を振り切ってダボスへ行き、これからの世界はどうあるべきか、普遍的な価値観を持ってビジネスリーダーたちに説いたのです。立派な振る舞いだと思います」
「一方でアナン氏の呼びかけに賛同した世界のビジネスリーダーたちにも2つの思惑があったと想像します。ひとつは世界が持続可能でなければ、そこで活動する企業も困る。だから取り組まねばならないという認識があります」