ひらめきブックレビュー

オールナイトニッポン 「何をやってもいい」番組作り 『深解釈オールナイトニッポン』

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オールドメディアと思われていた「ラジオ」に復活の兆しがあるらしい。ポッドキャストなどの音声メディアの台頭、新型コロナウイルス禍による巣ごもり需要など、要因はいろいろありそうだ。長年培われてきたラジオ文化が脈々と引き継がれていくのは、素晴らしいことだ。

一定以上の年齢層には「ラジオといえば深夜放送」という人が多いかもしれない。そして、かつて圧倒的な人気を誇った深夜番組に「オールナイトニッポン」がある。

オールナイトニッポンは、1967年10月2日から、ニッポン放送をキーステーションに全国ネットで放送。現在は「オールナイトニッポン」(月~土 25時~27時)と「オールナイトニッポン0(ZERO)」(月~土 27時~28時30分/28時50分/29時)のほか、いくつかの派生番組や特別番組がある。

自分も中高生の頃は毎晩のように夢中になって聴いていた。たくさんの人の思い出がつまったオールナイトニッポンは今年、放送開始55周年を迎えた。これを記念して、番組の構成や台本を担当する放送作家10人へのインタビューをまとめたのが本書『深解釈オールナイトニッポン』だ。

ノスタルジーに終わらない

オールナイトニッポンの歴代パーソナリティーには、タモリ、ビートたけしなど今では大御所となった芸人や、多数のファンを抱えるミュージシャンなどが何人(組)もいる。55周年記念ともなれば、そうした元パーソナリティーたちや、話題になった放送回などを中心にまとめるのが王道だろう。だが本書は、あえて「裏方」である放送作家にスポットライトをあてた。

思い出話や数々のエピソードが語られるが、単なるノスタルジーに終わっていないのが本書の特長だ。それぞれの放送作家がパーソナリティーやディレクター、他のスタッフとともに、さまざまな工夫とアイデアを盛り込みながら番組づくりをしてきた様子がリアルに伝わる。

「ファン向けの番組を作るな」という教え

藤井青銅氏は「なんだかわからない人を起用することがオールナイトニッポンの伝統」であり、「化けたらすごいじゃないですか」と言う。実際、あのタモリも起用された時は「なんだかわからない人」だったのだろう。「何をやってもいいという考え方は今もずっと残って」いるとも指摘。番組としての実績や評価は盤石なので、「2~3枠は大失敗してもいい」とのことだ。

石川昭人氏は2016年に、現在ほど売れていなかったアイドルグループ「乃木坂46」の中で、あまり名前の知られていなかった新内眞衣さんをパーソナリティーに起用し、見事に育て上げた。新内さんは人気メンバーとなり、今年グループを卒業した。ニッポン放送には「ファン向けの番組を作るな」という教えがあったそうだ。

10人の話には企画づくりやものづくりの貴重なヒントがあふれており、異業種のビジネスパーソンの参考にもなりそうな内容だ。ぜひページをめくってみてほしい。

今回の評者 = 吉川 清史
情報工場SERENDIP編集部チーフエディター。8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」の選書、コンテンツ制作・編集に携わる。大学受験雑誌・書籍の編集者、高等教育専門誌編集長などを経て2007年から現職。東京都出身。早大卒。

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