名古屋外国語大・亀山郁夫学長 創造的思考と謙虚さを名古屋外国語大学 亀山郁夫学長(上)

ドストエフスキー研究で知られるロシア文学者の亀山郁夫さん(73)は東京外国語大学学長を経て、名古屋外国語大学学長を務める。国立と私立の外語大を15年間にわたって率いてきたまれな存在だ。文学者として精力的に研究・執筆活動をしながら、組織運営に挑んでいる。

――リーダーに必要な条件とは何だとお考えですか。

「創造的思考。自分の力におごることのない謙虚さ。厳しさと寛容さのバランス。この3つです。人とは異なるプラスアルファの思考ができないと人はついてこないので、創造的思考は重要です。謙虚さは言葉に力を与えます。ただ寛容の精神が強すぎると裁断はできません」

「私自身は生来、引っ込み思案で恥ずかしがり屋です。自分が一歩踏み出したと思えるのは1990年に同志社大学を辞めて東京外大に移ったころですね。テレビのロシア語会話の番組でカメラの前に立つようになりました。ソ連のゴルバチョフ元大統領が来日した時期で、一種のロシアブームとなり、高い視聴率を誇りました。蛮勇をふるって出演しましたが、引っ込み思案であることにも居直れるようになりました」

――ご自身をリーダーの資質に欠けると表現されていますね。

「文学者であることがその理由です。リーダーが決断して組織を導いていく存在である一方、文学者は基本的に迷う存在だからです。文学は人間精神の根本を見つめます。人間精神の根本は混沌としていて美しくもあれば醜くもある。二元論的な価値観の中ですぱっと判断し、割り切って行動できることがリーダーの条件である以上、常に迷いを抱えて自分自身がどういう存在かもわからないような文学者は人を率いるのに向いていません」

――しかし実際には15年にわたって、学長を務められています。

「学長としてのビジョンと夢があるからです。私は教師の家庭に育ったせいか、教育・教養への憧れがあります。貧しかったがピアノを習ったり、世界文学全集を読んだりできた。非常に恵まれた文化的な環境があって、とりわけ西洋の文化に対する憧れを幼いときから持っていた。そこから得た喜びが大きかったのです。それを体験できる学生を育てたい。私が人生で経験した喜び、文学や芸術を体験してほしい。それがビジョンです」

「中学3年生のときにドストエフスキーの『罪と罰』を手に取らなければ、今の私はない。幼いときは出会いの可能性の宝庫です。特に二十歳くらいまでは何を手に取るかによって人生は変わる。教育という場を通せば、教養への入り口を与えることが可能になります」

名古屋外国語大学長 亀山郁夫氏
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学問への自信で精神安定