障がい者や高齢者にももっと使いやすいデザインを――。ソニーがインクルーシブデザインへの取り組みを活発化している。オーディオ機器のデザイン過程には全盲の社員などが参加。社員を対象に、インクルーシブデザインのワークショップも実施している。白杖(はくじょう)とセンサーを組み合わせた補助技術の開発プロジェクトも始まった。メーカーとしてインクルーシブデザインに向き合う理由とは?

ソニーが実施しているインクルーシブデザイン体験会とワークショップ(写真/平野亜矢)
ソニーが実施しているインクルーシブデザイン体験会とワークショップ(写真/平野亜矢)

 白杖を振って歩く男性の後に、メモを片手に数人が続く。時折立ち止まると、「なぜ今、駅の方向が分かったんですか?」「改札がある場所はどう判断するんですか?」などの質問を男性に投げかけた。周囲の音や風の動きから状況を判断していることを説明する男性。周りの人たちは、うなずきながらメモを取っていた。

 これは、ソニーの拠点の1つ、ソニーシティみなとみらいで2022年10~12月に行われたインクルーシブデザイン体験会の一場面だ。ソニーでは21年からインクルーシブデザインソリューションズ(東京・江東)の協力の下、社内各部署の統括部長以上を主な対象として、同体験会を実施してきた。体験会では、レクチャーに加え、同社から派遣された「リードユーザ」と呼ばれる障がい者と実際に街を歩き、その人たちが感じている“不便”への気づきを得るワークショップも行う。記者が見学したグループでは視覚障がい者がリードユーザを務めていたが、別のグループでは車椅子ユーザーと行動を共にしていた。23年2~3月には、事業部を中心とした統括課長以上に対象を拡大。累計で約1000人の社員がこの体験会に参加する見込みだ。

 このように、ソニーでは近年、インクルーシブデザインへの取り組みを活発化している。インクルーシブデザインとは、高齢者や障がい者など、何らかの制約がある人々の不便やニーズをイノベーションにつなげるためのデザイン手法のこと。商品やサービスの企画・開発過程において、従来は除外されてきたこれらの人たちを参加させることで、これまで気づいてこなかったニーズを掘り起こし、イノベーションにつなげていこうとするものだ。個々の多様性が重要視される中、インクルーシブデザインもまた注目度が高まっている。

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