2022年5月2日発売の「日経トレンディ2022年6月号」 ▼Amazonで購入する では、「格安キャンプ道具100」を特集。現在の「第2次キャンプブーム」を大きくけん引したコンテンツが、あfろ氏による漫画『ゆるキャン△』(芳文社)だ。アニメ化で人気を伸ばし、関連商品の売り上げや、作品のモデル地への“聖地巡礼”を行うファンも急増するなど、「ゆるキャン△」経済圏を拡大している。ブームの要因を探った。

※日経トレンディ2022年6月号より。詳しくは本誌参照

「ソロキャン」人気など、第2次キャンプブームに大きな影響を与えた、あfろ氏による漫画『ゆるキャン△』。様々な関連グッズも売り上げを伸ばした
「ソロキャン」人気など、第2次キャンプブームに大きな影響を与えた、あfろ氏による漫画『ゆるキャン△』。様々な関連グッズも売り上げを伸ばした

 1990年代に続く第2次キャンプブームを語るうえで欠かせないコンテンツが『ゆるキャン△』だ。あfろ氏による原作漫画が2015年から「まんがタイムきららフォワード」(芳文社)に連載され(現在は「COMIC FUZ」に移動)、18年のアニメ化によって一気に人気を伸ばした。

【漫画】『ゆるキャン△』(芳文社)
【漫画】『ゆるキャン△』(芳文社)
あfろ氏が2015年から連載する。山梨・静岡を主な舞台に、キャンプが趣味の女子高生たちの等身大の日常を描く。既刊13巻で現在も連載中
【TVアニメ】『ゆるキャン△』
【TVアニメ】『ゆるキャン△』
第1作目『ゆるキャン△』は2018年1~3月、第2作目の『ゆるキャン△ SEASON2』は21年1~4月放送。原作9巻までの内容に沿ったアニメ化
【ドラマ】『ゆるキャン△』
【ドラマ】『ゆるキャン△』
原作からの実写ドラマ化。第1作目『ゆるキャン△』は2020年1~3月、第2作目『ゆるキャン△2』は21年4~6月に放送
【映画】『ゆるキャン△』
【映画】『ゆるキャン△』
アニメ版オリジナルの展開。大人になりそれぞれの道を歩んでいた主要キャラクターたちが、一緒にキャンプ場を造る物語。2022年7月1日公開予定

 作品は山梨県に暮らし、キャンプを趣味とする女子高生たちの日常を描く内容だ。2000年代に主にアニメ・漫画で流行した、大きな事件を伴わない日常を描く、いわゆる「空気系」「日常系」の系譜にある作品だが、『ゆるキャン△』人気はアニメ・漫画ファンだけでなく一般層にも拡大。特に作品をきっかけに、モデル地の観光需要は大幅に伸び、経済効果は静岡県だけでも5億~6億円に上るとの試算もある。本作がこれほど多くの人に影響を与えたのはなぜか。

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 TVアニメ『ゆるキャン△』の制作を手掛けるフリューの綾野佳菜子氏は、原作漫画の帯などにも使用された「手の届きそうな非日常」というフレーズを挙げ、富士山周辺のキャンプ地などを主な舞台とし、あまりに身近な日常生活とも、異世界を舞台にしたファンタジーとも異なる、「自分でも思い立てば行ける、現実と地続きの非日常を魅力的に描いた点が、多くの人に支持された理由ではないか」と分析する。

 その「現実とのゆるいつながり」を生んだのが、実在の物や場所に基づく描写を徹底した原作漫画の作風と、それを損なうことなく忠実に描き切ったアニメ版の高いクオリティーだ。アニメでは特に、キャンプ地の美しい風景が見どころの一つだが、京極義昭監督は原作のコマに描かれた場所の一つ一つをロケハンで検証し、作中の時間の日照条件まで綿密に確認するなど、リアリティーの追求を徹底したという。

富士山周辺など、風景を再現した美しいキャンプ地の描写
富士山周辺など、風景を再現した美しいキャンプ地の描写
本栖湖畔の「浩庵キャンプ場」(写真上)、富士山麓の「ふもとっぱら」など山梨・静岡県のキャンプ場を、現実の風景に忠実に美しく描写。モデル地ではキャンパーが増加した。(下画像:アニメ『ゆるキャン△ SEASON2』1話より)

 また、作中に登場するキャンプ道具の多くが、キャンパーの目から見れば、型番レベルでモデルと思われる商品の特定が可能な点も注目を集めた。

 そうしたマニアックな魅力がある一方、主要キャラクターの1人の各務原なでしこをキャンプ初心者とし、入門作品としての側面もしっかりと備えていたことが、キャンパー以外のファン層も取り込む間口の広さにつながった。

 実在の風景、実在の道具、さらに食欲をそそるキャンプ地での料理描写などが加わって、フィクションでありながら、視聴者の「行く」「買う」「作る」といった現実の行動を強く喚起。作中で描かれる、自分のペースや価値観を重視する「ソロキャン」のスタイルも若い世代の感覚に合い、共感を呼んだ。

実在商品をモデルにしたと思われる〝激似〟グッズが多数登場
実在商品をモデルにしたと思われる〝激似〟グッズが多数登場
キャンプに詳しい人なら「あれだ!」と分かる道具が多数登場。モデルだと特定された商品は売れ行きが伸びた。『ゆるキャン△』第2巻には「笑's コンパクト焚き火グリル 『B-6君』」(昭和プレス)に似た商品が登場
再現したくなるキャンプ飯・旅グルメの描写
再現したくなるキャンプ飯・旅グルメの描写
作中にはソロキャンプ、グループでのキャンプそれぞれに、キャンプ地での料理や旅先でのグルメ描写が満載。食欲をそそる「キャンプ飯」は、作る過程も描かれているため、レシピを再現する読者・視聴者が相次いだ。(下画像:アニメ『ゆるキャン△』11話より)

グッズとして鉈(なた)が売れるアニメ

 アニメの反響は第1作目の放送初期から大きかったというが、フリューで公式グッズなどを担当する小島弓佳氏によると、通常のアニメとはグッズの売れ方がひと味違ったという。放送開始当初は缶バッジやタペストリーといった通常のアニメファン向け商品がよく売れていたが、次第に高価格帯のアウトドアグッズなどの販売が伸びるようになった。「ファン層がキャンプの愛好家や、広く一般層にも拡大していった影響とみられる」(小島氏)

 アルミ製のメスティン(飯ごう)など、実際のアウトドアシーンで便利なグッズの人気が出るようになったほか、作中でキャラクターたちが身につけるアパレルグッズなど、レプリカ商品の人気も高まったという。中でも、作中でソロキャンを趣味とする志摩リンが愛用する鉈のレプリカ商品として、新潟県三条市の刃物メーカーとのコラボで販売した「リンちゃんの鉈」は、異色のアニメグッズとして話題となった。

■ゆるキャン△×DRESS メスティン
■ゆるキャン△×DRESS メスティン
炊飯をはじめ、煮る、焼く、蒸すなど様々なキャンプ調理に使える、アルミ製の箱型飯ごう。『ゆるキャン△』ならではの公式人気グッズ。実勢価格Mサイズ・各3520円(税込み)
■なでしこのニットキャップ(左) ■志摩リンのストライプマフラー(右)
■なでしこのニットキャップ(左) ■志摩リンのストライプマフラー(右)
作中でリンやなでしこが愛用しているアパレルアイテムのレプリカグッズは「公式イベントの際に着用して参加する人も多い」(小島氏)。ニットキャップ/実勢価格 3850円(税込み)、マフラー/実勢価格4400円(税込み)
■ゆるキャン△×味方屋作リンちゃんの鉈
■ゆるキャン△×味方屋作リンちゃんの鉈
作中でリンが使用する鉈のモデルと思われる、新潟県三条市の刃物メーカーとのコラボ。「鉈がグッズに」と話題に。実勢価格1万5500円(税込み)。(下画像:アニメ『ゆるキャン△』1話より)

 作品人気の上昇とともに、モデルとなったキャンプ地や山梨県身延町などへの「聖地巡礼」を行うファンも急増。公式でも山梨・静岡を中心にモデル地などを巡るスタンプラリーを、規模や地域を変えながら自治体と共同で数年にわたり実施。さらなる観光需要の追い風となった。鉄道会社とも、京都の叡山電鉄でのラッピング車両の運行を皮切りに、JR東海が静岡―甲府間で急行「ゆるキャン△ 梨っ子」号を運行するなど、大規模なコラボもあり、経済効果は多方面に拡大している。

 22年7月には、アニメシリーズのオリジナルストーリーで制作される映画『ゆるキャン△』の公開を控え、ブームの連鎖はまだ当面衰える気配はない。

2018年11月に公式イベント「秘密結社ブランケット音楽祭」第1回が、作中の「本栖高校」のモデルとなった山梨県の中学校で開催
2018年11月に公式イベント「秘密結社ブランケット音楽祭」第1回が、作中の「本栖高校」のモデルとなった山梨県の中学校で開催
JR東海のコラボ列車は珍しく、鉄道ファンも注目
JR東海のコラボ列車は珍しく、鉄道ファンも注目
アニメ第1作目の3話放送週に行われた、京都の叡山電鉄とのコラボイベント。既に多くのファンが集まり「関係者の誰もがヒットを確信した」(綾野氏)
アニメ第1作目の3話放送週に行われた、京都の叡山電鉄とのコラボイベント。既に多くのファンが集まり「関係者の誰もがヒットを確信した」(綾野氏)
アニメ『ゆるキャン△ SEASON2』の後半は、静岡県が主な舞台。モデル地を中心に県内を巡るスタンプラリーも開催
アニメ『ゆるキャン△ SEASON2』の後半は、静岡県が主な舞台。モデル地を中心に県内を巡るスタンプラリーも開催
静岡県との観光キャンペーンで制作されたマップ。伊豆半島の大室山など、作中に登場したモデル地を網羅。伊豆の観光地の風景を忠実に再現。アニメ『SEASON2』・13話(下)
静岡県との観光キャンペーンで制作されたマップ。伊豆半島の大室山など、作中に登場したモデル地を網羅。伊豆の観光地の風景を忠実に再現。アニメ『SEASON2』・13話(下)
アニメ版主題歌を歌う亜咲花によるコラボソングも話題に
アニメ版主題歌を歌う亜咲花によるコラボソングも話題に
2022年3月から「日清カレーメシ」とのキャンペーンが開始。コラボソング、動画などオリジナルコンテンツも公開

(c)あ f ろ・芳文社/野外活動委員会 (c)ドラマ「ゆるキャン△」製作委員会

注)「日経トレンディ」2022年6月号には、『ゆるキャン△』のクリアファイルが付いています。
「日経トレンディ2022年6月号」の主な内容を紹介
【格安キャンプ道具100】
●U4万円! 初心者が買いそろえるべきソロキャン最強グッズを選定
●超格安でも機能は十分? ワークマンのキャンプグッズを検証
●プロが推薦! 格安キャンプ道具逸品カタログ
●即席シャワー、簡易ハンモック…などアイデア逸品が続々
●「ゆるキャン△」一大ブームの背景、新作映画公開、作中登場グッズ集
●インタビュー 「ゆるキャン△」各務原なでしこ役
 花守ゆみり(アニメ版)/大原優乃(ドラマ版)
【2022年上半期ヒット大賞&下半期ヒット予測】
●【食品】「冷凍」の活用やコラボの拡大で即席麺競争が激化
●【飲料・酒類】コーラもサワーもクラフト化。ビール大物の復刻&刷新も
●【日用品】泡&ボトルで「逆さ」対応。洗剤は使い勝手で選ぶ時代に
●【雑貨】ついに炭酸対応! 国内メーカーの水筒が進化
●スペシャルインタビュー 松坂桃李
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