網膜剝離、若くても強度の近視は要注意
目の網膜がはがれ、最悪の場合は失明に至る網膜剝離は、若い年代でも意外に多い。発症しても気づきにくく、対処が遅れると手術しても視力が回復しないことも。日頃から注意し、異常を感じたらすぐに眼科を受診しよう。
目の網膜は光を感じ取り、その情報を視神経から脳に伝える大切な器官。これが網膜色素上皮からはがれる病気を網膜剝離と呼ぶ。滋賀医科大学眼科学講座の大路正人教授によると「それほど珍しい病気ではなく、年間約1万人が発症する」という。
糖尿病やぶどう膜炎などが原因で起こることもあるが、最も多いのは網膜に穴が開き、そこから少しずつはがれていく裂孔原性網膜剝離だ。症状が進むと視野が欠けていき、最終的には失明に至る。
発症率に男女差はないが、年代では2つのピークがある。「ひとつは20代で近視が強い人たち。眼球が大きくなって網膜が薄くなり、穴が開くことではがれる。
もう一つは50~60代。硝子体が縮む年代で、そのとき網膜が引っ張られることがある」と、みさき眼科クリニック(東京・渋谷)の石岡みさき院長は話す。
網膜剝離というとボクサーがなりやすい病気として知られるが、これは目の周辺への打撃が原因だ。同じくアトピー性皮膚炎の人も、目がかゆいからと強くこすったりたたいたりして発症しやすい。「近視が強い人、アトピー性皮膚炎の人は定期的に網膜の検査をした方がよい」と石岡院長は助言する。
一方、50~60代で硝子体が縮むのは老眼と同じく避けられない加齢現象だ。これが原因で網膜剝離が起こる場合、現実的な予防法はない。発見が遅れて剝離が進んでしまうと、治療しても視力が回復しないことがある。予防法がない以上、早い段階で発見することが重要になる。
人間ドックなどで眼底写真を撮ることがあるが、それだけでは安心できない。「穴が開くのは眼底写真には写らない部分。特殊な目薬で瞳孔を広げて眼底検査をする必要があるので、眼科でなければ発見できない」と石岡院長は指摘する。
わかりやすい自覚症状としては、飛蚊症や光視症がある。存在しないゴミや黒い点が見えるのが飛蚊症、光が見えるのが光視症だ。どちらも硝子体の老化で起こるので問題ない場合も多いが、中には網膜剝離が原因になっていることがある。
「飛蚊症や光視症が急に悪化したら要注意。網膜剝離はほとんど片目だけに発症するので、おかしいと思ったときは片目ずつ見るとわかりやすい」と大路教授はいう。
特に中高年の網膜剝離は進行が速い。異常を感じたら、すぐに眼科を受診しよう。なお「瞳孔を広げる検査はある程度の時間がかかるし、検査後に車の運転ができなくなる」(石岡院長)ので注意してほしい。
網膜に穴が開いているだけの段階なら、レーザーで治せる。「穴の周りにレーザーを当てて、のり付けするようなイメージ。10~20分程度で終わる」と大路教授は説明する。
穴だけでなく、すでに網膜がはがれていたら手術しかない。通常1~2週間の入院が必要になる。方法としては眼球の外から行うバックリング手術と、硝子体を取り除く硝子体手術がある。硝子体がしっかりしている若年層は前者で、柔らかくなっている中高年は後者で行うのが主流だ。
硝子体手術では、硝子体を取り除いてからガスを注入し、網膜を壁にくっつけてレーザーを当てて固定する。ただし、硝子体を取り除くと白内障の進行が速くなる。そのため「50代以上なら同時に白内障の手術もすることが多い」(大路教授)という。
(ライター 伊藤 和弘)
[NIKKEI プラス1 2022年5月14日付]
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