技術の力で壮大な夢を現実に

炭素ゼロを世界中に押し付けようというのではない。根底には、サハラ砂漠以南のアフリカなど貧困に苦しんでいる地域では、炭素を排出する電気を使ってでも、経済成長して人々の福祉が向上する方が優先だという人道的な信念がある。

では豊かな国は電気のなかった時代に戻れというのかというと、それも違う。ゲイツは現代文明を支える安い電気を奇跡とまで呼ぶ。豊かな国は、炭素ゼロの電気を作る責任を負った上で豊かさを引き続き追求すれば良いのだ。

「道は険しい」としながら、技術のイノベーションによってゼロを達成可能だと確信するゲイツは、終始楽観的だ。炭素回収(石炭火力発電所などから排出された炭素を空気中から回収する技術)では、回収効率を改善する新素材が開発できればゼロに大きく貢献する可能性があるなど、「技術オタク」として期待する技術を無数に紹介する。

人道的な信念、経済成長の肯定、技術への信頼が絶妙なバランスで同居する巨大な知性によって、世界へ、未来へと視界が開かれる。読後感は実に爽快だ。

今回の評者 = 戎橋昌之
情報工場エディター。元官僚で、現在は官公庁向けコンサルタントとして働く傍ら、8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」のエディターとしても活動。大阪府出身。東大卒。

地球の未来のため僕が決断したこと

著者 : ビル・ゲイツ
出版 : 早川書房
価格 : 2,420 円(税込み)

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