九州を中心にファミリーレストランを展開するジョイフルが、外食DX(デジタルトランスフォーメーション)の成功企業であることはあまり知られていない。スマートフォン向けアプリ「ジョイフル公式アプリ」は利用者の来店頻度が平均3.5倍に増加。月平均で4回以上来店する優良顧客は、アプリ提供開始後に12倍に増えるなど、継続来店に劇的な効果をもたらしている。これが新型コロナウイルス禍で外食産業が苦戦する中、2021年6月期のジョイフルの赤字を防いだ。19年までデジタル施策を全く実施してなかった同社は、いかにしてデジタルマーケティング先進企業へと変革できたのか。

九州を中心にファミリーレストランを展開するジョイフルはスマートフォン向けアプリ「ジョイフル公式アプリ」を軸に、顧客との関係性構築に力を入れる
九州を中心にファミリーレストランを展開するジョイフルはスマートフォン向けアプリ「ジョイフル公式アプリ」を軸に、顧客との関係性構築に力を入れる

 ジョイフルのアプリには、ファミレスのアプリには珍しい機能が備わっている。それが「ウォーク機能」だ。利用者の累計歩数が1週間で5万歩に達するとポイントがたまる。この目標を4週間達成すると、アプリ上で「来店スタンプ」がもらえるという機能だ。つまり1カ月間、毎週5万歩を達成すれば、ジョイフルに来店せずとも来店1回と同じ扱いになる。

 来店スタンプをためることで、対象商品と引き換えたり、ドリンクバーのフリーパスチケットがもらえたりといったさまざまな特典を得られる。また、スタンプをためることで会員ランクが上がり、より優遇される。最高ランクのダイヤモンド会員はドリンクバーが1年間無料で利用できるフリーパスが付与されるといった具合だ。

 「ウォーク機能はジョイフル店舗外の生活の中でも、継続的にアプリを利用してもらうための機能として2021年4月に開発した」とジョイフル営業企画部デジタルマーケティング課の濱田由香課長は言う。ウォーク機能はスマホの歩数計測機能と連動しているため、わざわざアプリを開く必要はない。ただ、スタンプがたまることで特典を得られるため、来店につながりやすくなるとみる。「どれだけジョイフルが好きな顧客でも飽きはくる。アプリで接点を持ち続けることで、想起されやすくする」(濱田氏)のが狙いだ。

ジョイフルのアプリには1週間の歩数5万歩を4週間達成すると、来店したときと同様のスタンプがもらえる「ウォーク機能」が搭載されている
ジョイフルのアプリには1週間の歩数5万歩を4週間達成すると、来店したときと同様のスタンプがもらえる「ウォーク機能」が搭載されている

 ジョイフルのアプリは、明確に利用者の来店頻度が高まる成果が出ている。19年の提供開始後、21年10月時点で顧客の来店頻度はアプリの利用によって平均で3.5倍に増えた。とりわけ、月に平均4回以上来店する優良顧客は約12倍に爆増。「アプリ経由の来店が売り上げに占める比率も大きくなっている」(濱田氏)。同社の21年6月期の連結決算は最終損益が17億円の黒字だった。新型コロナウイルス感染症拡大で厳しい環境に置かれる中、「赤字ぎりぎりからすんでのところで黒字へと転換できたのは、アプリの力が大きい」と濱田氏は言う。

 ジョイフルはアプリを顧客接点の中心にすることで、コロナ禍を乗り切るDXに成功した企業なのだ。だが、アプリの提供開始以前はデジタルマーケティングはおろか、紙のチラシなどのアナログなプロモーションすらほとんど実施せず、マーケティングとは無縁だった。

PVやUUなどの中間指標では投資できない

 「DXやIT化という言葉が生まれる中、大手広告代理店からデジタルプロモーションの提案は何度も受けてきた。だが、我々からするとチャネルが紙からデジタルに代わるだけで、中身は同じ。使った広告宣伝費に対して、成果につながらないギャップをかなり感じていた」

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