ひらめきブックレビュー

挑戦し続けるから愛される マクドナルドの成功と失敗 『日本マクドナルド 「挑戦と変革」の経営』

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ハンバーガーチェーンのマクドナルドには、小学生の子どもにせがまれて家族で訪れることが多い。どこの店舗も、いつも学生や子連れなどでにぎわっている。

日本に米国のハンバーガー文化を持ち込んだ日本マクドナルドは、2021年に創業50周年を迎えた。1971年の1号店オープン以来、外食ビジネスの成長と共に事業を拡大し、22年9月時点の国内店舗数は2950、21年の売上高は約3177億円に達した。

本書『日本マクドナルド 「挑戦と変革」の経営』は、日本マクドナルドの特別プロジェクトチームが、同社の過去50年間の挑戦の数々をたどるとともに、グローバルに共有される経営理念や価値観を紹介する一冊だ。顧客のためにつねに挑戦を続けてきたことが、愛され続ける理由のようだ。

■1号店は「銀座」にこだわり

1937年にマクドナルド兄弟が米カリフォルニア州で開業したマクドナルド(McDonald's)は、フランチャイズ権を獲得したレイ・クロック氏の下で急成長する。クロック氏と契約して日本マクドナルドを創業したのが藤田田氏だ。

日本マクドナルドは当初から大きな挑戦をする。他国のマクドナルドは郊外型の店舗が主流の中、藤田氏は1号店の銀座への出店にこだわって米本社を説得した。若者文化の発信地である銀座で話題を呼べば、全国に広がると読んだからだ。

この読みは当たったが、その後も次々と挑戦が続く。80年代には、モータリゼーションに合わせ、国内では先駆的だったドライブスルー方式の店舗を拡大。オーダーを迅速に処理する独自のPOSレジも開発・導入し、米本社にも採用された。89年には、日本オリジナルメニューの「てりやきマックバーガー」を期間限定で発売した。このヒットを受け、米本社は「いつでもどこでも変わらぬメニュー」の原則を、国や地域ごとのオリジナルメニュー重視に切り替えたという。日本マクドナルドの挑戦が、世界のマクドナルドに影響を与えてきたのである。

■向上している状態が一番危険

失敗や教訓の数々も記される。最大の試練は、2014~15年のチキンマックナゲットの品質に関する報道や異物混入事件だった。2年間で売り上げは1300億円減少。これを受けて日本マクドナルドは、安全・安心を求める顧客の声に耳を傾け、主要原材料の原産国やアレルギー情報などをホームページや商品パッケージからすぐに確認できるようにするなど、対策を講じた。最近の業績は上向き、顧客満足度も高まっているようだ。

過去50年間、コンビニエンスストアの台頭や食の安全への意識の高まり、新型コロナウイルス禍など市場環境は変化を続けてきた。変化に対応するため、日本マクドナルドは挑戦を続けた。「『向上している状態』が一番危険」という言葉が同社の経営姿勢を表す。今うまくいっていても、いずれ停滞する。だからこそ、つねに次の手を考えて挑み続ける。

事業環境の変化が一段と激しさを増す中で、本書から学ぶべきことは多いだろう。

今週の評者 = 前田 真織
2020年から情報工場エディター。08年以降、編集プロダクションにて書籍・雑誌・ウェブ媒体の文字コンテンツの企画・取材・執筆・編集に携わる。島根県浜田市出身。

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