炊飯器の保温モードは、メーカーや機種にもよるがおおむね60~75度に設定されている。先ほど、野菜は高い温度で加熱するほど速くやわらかくなると書いたが、正確には「80度以上で加熱するとやわらかくなり、温度が高いほど速くやわらかくなる」。80度より低い温度では、長時間加熱してもやわらかくなりにくい。一方、具に味が染み込むという現象は温度が高い方がより速く進むが、80度以下でも着実に進む。
したがって、野菜が十分にやわらかくなったあとは80度以下のなるべく高い温度で保温すると、煮崩れを防ぎつつ、より早く味が染みるのだ。4センチメートルの厚さの大根ならば3時間ほど保温しておけば十分味が染みる。昼に作れば夕飯に間に合う。
コラーゲンの分解は75~85度以上で起こるので、鶏手羽肉も保温モードならスカスカにならない。また、この温度ならこんにゃくやゆで卵も硬くなりにくい。
なお、重要なのは80度以下のなるべく高い温度で保温することなので、必ずしも炊飯器を使う必要はない。最近注目を集めている電気調理鍋には保温機能がついたものもある。また、土鍋や厚手のステンレス鍋は保温性が高いので、火からおろしてバスタオルなどでくるんでおくと、ある程度の時間、温かい状態を保つことができる。
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下ゆでにもコツ

野菜の煮崩れを防ぐには、下ゆでにもコツがある。野菜を加熱すると、細胞同士を結びつけているペクチンが分解されることでやわらかくなる。沸騰に近い温度帯では、この反応がよく進む。
ところが50~60度近辺では逆に、ペクチンを補強して硬くする反応が起こっている。そのため、鍋に水と野菜を入れたら弱めの火加減で時間をかけて沸騰させ、この温度帯をゆっくりと通過させると煮崩れしにくくなる。特に、ジャガイモのような煮崩れが気になる具材の下ゆでにオススメだ。
(科学する料理研究家 平松 サリー)
[NIKKEI プラス1 2022年2月12日付]