自分たちの「思い」をだらだらと書き連ねた長いプレスリリースは読むに堪えません。この段階で、記事化へのハードルは上がってしまいます。文章をもっと単純化し、必要な情報に絞れば相手に伝わりやすくなります。その発想で大成功したのが「ももクロ」です。広報はその手法に学ぶべきです。

こうなると“おじさん”には見分けがつきません…… ※画像はイメージ(写真提供:StreetVJ/Shutterstock.com)
こうなると“おじさん”には見分けがつきません…… ※画像はイメージ(写真提供:StreetVJ/Shutterstock.com)

「アイドルおじさん問題」とは

 私の同級生に年齢よりも老けて見える男がいます。スーパー銭湯などに行くと周囲の本物のおじいちゃんたちと見分けがつかなくなり、極めて高いステルス性を発揮します。と、そんなことを書きたかったわけではなく、私もそれなりのおじさんであるということを言いたかったのです。いや、今嘘を書きました。筆者も“かなり”のおじさんであることを言いたかったのです。

 ある人が「おじさん」であるか否かの定義はいろいろあると思いますが、その1つに「アイドル歌手の顔が区別できなくなったらおじさん」という判定方法があります。遺憾ながら、私もアイドルの区別がつかなくなって久しい、そういう意味では筋金入りのおじさんです。……すみません、またしても「そういう意味では」などと逃げを打ってしまいました。私はあらゆる意味でおじさんであることをここに認めたいと思います。

 それはさておき、アイドルの個体識別がつかない段階からさらに“ステージ”が上がると、今度は「AKB48」や「乃木坂46」のような「地名+数字」で構成されたグループの区別がつかなくなってきます。

 長々と書きましたが、要はおじさんがアイドルを見分けられなくなると、推しのグッズを買ってもらったり、オンラインライブで投げ銭をしてもらったりといったアイドルビジネスにおいて、おじさん世代がターゲットから抜け落ち、得べかりし利益を逸失しかねません。これはエンターテインメント業界では「仕方のないことである」と長年諦められていた問題でした。

 しかし、そこに天才的な仕組みを持ち込んで大成功したグループが2008年に現れました。「ももクロ」こと「ももいろクローバー」(11年に現在の「ももいろクローバーZ」に改名)です。ももクロはそれまで困難とされてきたグループアイドルの個人識別に、色で区別するという戦隊ヒーロー物のノウハウを取り入れ、大成功を収めています。これにより「黄色、またかわいくなったね」「グリーンの脱退は痛かった」「ピンク大人っぽい」など、誰1人個人名を覚えることなく彼女たちを色で識別し、その動向を追うことができます。これはアイドル好きのおじさんにもたらされた「認知革命」と言っていいほどの、まさに天才的なシステムです。

 さて、色というのは、どうやら人間が何かを単純化して識別する際にとても役に立つ情報のようです。例えば信号機、地下鉄の路線図、映画に出てくる時限爆弾の電源コードなど、色は我々のコミュニケーションを大いに助けてくれています。これは広報、マーケティングを仕事としている我々としては放っておくわけにはいきません。

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