ひらめきブックレビュー

世代論、若者論ではない 価値観としての「Z世代」論 『世界と私のA to Z』

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いつの時代も世代論や若者論は人気を集める。国内で「ゆとり世代」「さとり世代」は流行語になった。米国も同じだ。「X世代」「Y世代」「ミレニアル世代」「Z世代」、そして最近は「α(アルファ)世代」も登場している。1990年代後半から2010年ごろまでの間に生まれたのが「Z世代」で、日本にも飛び火して現在の若者論の中心になっている。

人間の個性や価値観は、遺伝と環境の両方の影響を受けると考えるべきだろう。一方で、生まれた年月で区切った世代論は環境しか考慮に入れていない。しかも、ある環境条件、例えば「生まれた時からインターネットがある」ことが人間の性格に与える影響は一様ではない。同じ年代に生まれたからといって、似た行動特性や考え方を持つとは限らない。

『世界と私のA to Z』の著者である竹田ダニエル氏は、「多様な価値観が存在することこそが『Z世代らしさ』であるにもかかわらず、『Z世代を代表する意見』というものを欲しがるのは、あまりにも矛盾しすぎている」と指摘し、生まれた年月で区切る世代論に異を唱える。竹田氏は米国出身で今も在住するZ世代のライター。本書では、米国の若い世代を中心に沸き起こっている「Z世代的価値観」によるムーブメントとカルチャーをリアルに伝えている。

竹田氏が本書で伝えているのはZ世代の特徴ではない。「Z世代的価値観の特徴」だ。すなわち、Z世代的価値観はあくまで「価値観」であり、世代に関係なく誰でも持ちうるものだ。竹田氏は「選択可能」という言い方をしている。Z世代的価値観は、米国のZ世代に属する若者の多くが持つ、新しい時代環境の影響を受けて生成された価値観、生き方を指している。

■セルフラブは社会を変えるため

Z世代的価値観とは、竹田氏いわく「膨大な情報量と『繋がり(つながり)』を駆使する能力を持ち、自分たちの世代で物事を変えていこうという当事者意識を持ったことによって生まれた新たな価値観」のことである。

例えば、「セルフケア・セルフラブ」というZ世代的価値観がある。「自己愛」といっても、ナルシシズムや自らの殻に閉じこもることではない。コミュニティと連帯し、学び合いながら社会を良い方向に変えていくために、自分というエネルギー源を守るのがZ世代的なセルフケア・セルフラブなのだ。背景には「自分のことを愛せずして、社会のために戦えるはずがない」との考え方がある。自分自身や周りの友人たちのことにしか関心がなく、社会問題に対して声を上げない日本の「若者らしさ」とは対極にある価値観ではないだろうか。

連帯、あるいは「社会を変える」といった意識を持つ現代のZ世代は、1960年代から70年代の若者文化に回帰しているのかもしれない。Z世代的価値観を「選択」した人たちが社会をどう変えていけるのかに注目したい。

今回の評者 = 吉川 清史
情報工場SERENDIP編集部チーフエディター。8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」の選書、コンテンツ制作・編集に携わる。大学受験雑誌・書籍の編集者、高等教育専門誌編集長などを経て2007年から現職。東京都出身。早大卒。

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