ひらめきブックレビュー

解約しにくいサブスク 「ずる」が招く信頼低下に注意 『ザ・ダークパターン ユーザーの心や行動をあざむくデザイン』

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頻繁に届く、登録した覚えのないメールマガジン、登録は簡単なのに解約するのが難しいサブスクリプションサービス。デジタルマーケティングの世界において、これらのように消費者のスキを突く形でお金や時間、個人情報をかすめとる手法を「ダークパターン」と呼ぶ。

本書『ザ・ダークパターン ユーザーの心や行動をあざむくデザイン』は、いわば「ずる」によって消費者の思考や選択を操作することが、長期的に企業のブランドや信頼の低下につながることを、事例や実験結果を織り交ぜて解説する。著者の仲野佑希氏はユーザーの体験価値を高めるライティングを行うUXライターで、企業への実務支援なども行っている。

■ユーザー目線の欠如

本書はダークパターンを7つの種類に分けて紹介する。いわば「反面教師集」だ。冒頭のメルマガの例は、そのうちの1つ「スニーキング(こっそり)」の結果だ。会員登録の時などに表示するメルマガ登録のチェックボックスをデフォルトでオンにしておくことで、消し忘れたユーザーを登録させる。商品やサービスの注文と同時に、有料会員に登録させるボタンもこれにあたるだろう。

「ミスディレクション(誘導)」は、解約手続きのキャンセルボタンを視覚的に強調してそちらを選ぶように仕向ける、といった手法のことだ。ほかにも、セールの期限を知らせるカウントダウンタイマーを、実際には繰り返しループさせるといった手法は「アージェンシー(緊急性)」と呼ばれる。

いずれの手法も見慣れてしまうと感覚がまひしがちだが、ユーザー目線が欠如しているのは明らかだ。サイト利用者の運営会社への信頼度やイメージは高まらないだろう。

■背景に組織的な圧力も

難しいのは、こうしたデザインの設計者は「実装者」にすぎない場合が多い点だ。ダークパターンの背景には、組織的な圧力があることが少なくないという。例えば、組織から「メルマガの登録者数を増やせ」とプレッシャーを受けたデザイナーが、メルマガ登録のチェックボックスをデフォルトでオンにする。結果、メルマガ登録者は増えたけれど、解除申請も急増する。そのことで上司に叱られたデザイナーは、それ以上叱られないために、解除しにくい設計を考える――といった具合だ。

著者は、企業がダークパターンに陥らないために、意思決定の際は定量的なデータだけでなく、ユーザーインタビューなどの定性的なデータを組み合わせることの重要性を指摘する。

消費者保護やプライバシー保護に敏感な欧米では、すでにダークパターンの規制強化が論じられているようだ。今後、国内にも影響は広がってくるに違いない。セールステクニックとして導入したつもりのデザインが、ダークパターンに陥ってはいないか。ブランド低下を見過ごしてはいないか。本書は自社サービスを省みる材料になるだろう。

今週の評者 = 前田 真織
2020年から情報工場エディター。08年以降、編集プロダクションにて書籍・雑誌・ウェブ媒体の文字コンテンツの企画・取材・執筆・編集に携わる。島根県浜田市出身。

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