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動物倫理学は人間に動物の立場に立って考えてみることを促している イラスト・よしおか じゅんいち

動物倫理学は人間に動物の立場に立って考えてみることを促している イラスト・よしおか じゅんいち

動物と人間の関係は現状のままでいいのか。私は大学1年生の講義で動物倫理を扱っているが、「動物の権利」という言葉を知っている学生は少ない。

家畜を殺してその肉を食べるのは許されるか、動物園に動物を閉じ込めておくのは問題ではないのか、医学の発展のために動物実験をしてもかまわないのか。これらの問いに対して、学生たちの反応は総じて保守的である。

肉食は仕方ないし、動物園に関しては、食料と医療が与えられるのだから動物にとってむしろ幸せだという意見もよく出てくる。

この傾向は学生だけではなく、広く日本全体に見られるものだろう。レストランに菜食主義のメニューが置かれていないのは普通のことであるし、街のペットショップのショーケースで犬猫が販売されていることに疑問を持つ声もさほど大きくはない。

苦痛からの解放

田上孝一『はじめての動物倫理学』(集英社新書、2021年)は、動物倫理学の前史から、現代的な動物解放の思想まで、バランス良く検討したものである。もし人間が狭い部屋に閉じ込められ、痛みや苦しみを一方的に強制され、成長の途中で殺されるようなことがあれば、我々は全力で糾弾するであろう。だが現代の工場畜産では、それと同じような自由の制限、痛みや苦しみの強制、そして殺戮(さつりく)が動物に行なわれている。

たとえ人間と動物は生物種としては異なっているとしても、痛みや苦しみは共通しているのだから、我々は家畜をその悲惨な状況から解放しなければならない。この動物解放の思想こそが現代的な動物倫理学の出発点である。これを背景として、動物は自分自身の生を主体的に生きていく権利を持っているという「動物の権利」の考え方が登場した。

浅野幸治『ベジタリアン哲学者の動物倫理入門』(ナカニシヤ出版、同)は、この点について、著者自身の思索を前面に押し出した本である。浅野は、動物には「基本的動物権」があると主張する。それは人間によって殺されない権利、傷つけられない権利、自由を奪われない権利の3つである。人間は動物に対するこれらの権利侵害を是正する必要があり、畜産や動物実験は廃止の方向に進めなくてはならないとする。

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