名古屋の老舗「金虎酒造」 寅年に合わせて純米大吟醸
名古屋駅からJR線で10分ほどの大曽根駅が最寄りの閑静な住宅街。その一角にある白い建物から、10月下旬になると白煙が上がり始める。1845年(弘化2年)創業の老舗、金虎酒造(名古屋市)で酒づくりが始まった合図だ。
ぬかが残らないように丁寧に洗った酒米を約1時間蒸し上げる。一定時間冷ましたら、杜氏(とうじ)の木村伸一さんがふるいで少しずつ麴(こうじ)菌をまいていく。付着させた菌の生育がうまくいっているか数時間ごとに確認する。3週間は蔵に泊まり込みだ。
「年によって酒米の生育状況や気候は異なる。様々な条件を加味しながら酒の風味を高めていくには職人の感覚が欠かせない」。7代目蔵元の水野善文専務は手作業にこだわる理由を説明する。
金虎酒造が目指すのは料理のおいしさを引き出す酒。強みであるすっきりとした舌触りと、華やかな香りを守るため神経を張り巡らせる。
麴が完成すれば、酒母をタンクに入れ、麴、米、水を加えて発酵させる。今年の新酒は圧搾などを経て11月下旬に完成する予定だ。
愛知県には肥沃な濃尾平野が広がり、かねて米づくりが盛んだった。平野を流れる木曽三川の水はミネラルを適度に含み酒づくりに適していると言われている。
当初の屋号は大善だったが、昭和初期、3代目の時代に金虎に改めた。名古屋城のシンボル「金鯱(きんしゃち)」と自身が生まれた寅(とら)年を組み合わせたと伝わる。
創業時は周囲一面に田んぼが広がり、そこでとれた酒米から日本酒をつくっていた。周辺の宅地開発が進むにつれて次第に田んぼは姿を消していったが、今も酒米の約9割は地元のものを使い続ける。
伝統を重視しつつ、日本人の食生活の変化に合わせてつくったのが洋食向けの日本酒「KOTORA citric」(コトラ・シトリック)。口に含んでみると、白ワインのような酸味を感じた。白麴由来のクエン酸によるという。揚げ物などの脂っこい食事や、アイスクリームなどのデザートとも合いそうだ。
量から質を求める流れは強まる。そこで来年の寅年を前に、最高級ブランドの純米大吟醸「金虎」を12月に発売する。水野専務は「純米大吟醸らしいフルーティーで華やかな風味と、金虎らしいすっきりとした舌触りを両立したい」と話す。
酒米の王様「山田錦」を使いながらも、麴の量を少し抑えることで一見正反対の2つの味を両立させることを目指す。価格は4合瓶で5500円で、これまで最も高価だった大吟醸「虎変」の約2倍。「正月など祝いの席で飲んでもらえたら」(水野専務)
酒瓶には虎とともに天を見上げる男性を描いた。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、飲食店での日本酒消費が落ち込み、金虎酒造も打撃を受けている。時代の変化を取り込みながら、新しい日本酒とともに再飛躍を目指す。
(名古屋支社 植田寛之)
[日本経済新聞電子版 2021年11月11日付]
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