日本補聴器工業会が2018年に行った調査では、日本で難聴を自覚する人のうち、補聴器を持つ人の割合は14・4%。これは40%を超える英国など欧米諸国と比較して低い。日本では補聴器利用後の満足度も欧米より低かった。
小川名誉教授は「日本では家電量販店や通販で補聴器が気軽に買える半面、難聴の耳の特性を考慮した補聴器の設定と慣れてもらうための導入時のケア(補聴器リハビリ)が浸透していないせいだ」と指摘する。
難聴で聞こえない音域があることに脳が慣れてしまうために、補聴器で低下した分の音量を補強すると「ガーガーとした騒音で逆に相手の言葉が分からない」となる。そのため購入した補聴器の利用を中止する人も少なくない。
重要なのが補聴器リハビリだ。例えば、慶応義塾大学の関連医療機関の耳鼻咽喉科では、最初は目標とする音の70%ぐらいまで補い、3カ月から半年で慣れてもらう。少しずつ音を大きくしていくことで、コミュニケーション能力改善を実現しているという。
最近は十分な知識と技能を持つ認定補聴器技能者が常在する販売店も増えたことで、リハビリも広がってきた。
大河原院長は「補聴器購入の前に耳鼻咽喉科の受診も大切。加齢による難聴でも伝音難聴が重なっている場合もあり、治療してから補聴器を調整することができる」と話している。
(ライター 荒川 直樹)
[NIKKEI プラス1 2022年7月9日付]