肉を酸性にする理由はこれだけではない。肉にもともと含まれているタンパク質分解酵素の働きが活発になり、筋繊維の一部が分解されて肉質がやわらかくなるのだ。付け加えれば、ヨーグルトにも乳酸菌が作り出したタンパク質分解酵素が含まれている。

ヨーグルト漬けを作るときのタレの材料は基本的にヨーグルトと塩だけでよい。魚や肉300グラムに対し、ヨーグルト大さじ3杯、塩を小さじ2分の1杯程度混ぜ合わせて使う。魚の臭み消しの場合、調理する前に30分から1時間ほど、タレに漬けておく。肉をジューシーにしたいときは漬けたまま冷蔵庫で一晩寝かせるのがよい。
好みに合わせ、おろしにんにく、ショウガ、スパイス類を加えてもおいしい。ちなみにインド料理店などで味わえるタンドリーチキンはヨーグルトに塩やスパイス類を加えて鶏肉を漬け込み、焼き上げている料理だ。
ヨーグルトは味噌とも相性がよい。どちらも乳酸菌が活躍する発酵食品だからだろうか。ヨーグルトと味噌を2対1の割合で合わせたタレに魚や肉を一晩漬けておいてから焼くと、とても香ばしく仕上がる。ヨーグルトの割合が多いため、味噌だけで漬けるよりも塩辛さを抑えられる。味噌の種類や好みにもよるが、味噌と同量から2倍程度のみりんを加えてもよい。ヨーグルトの力を味わってほしい。
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タレに漬けて冷凍保存も

魚や肉をタレに漬けたら、冷凍保存しておくのも便利だ。ポリ袋に入れて空気を抜き、封をしたらそのまま冷凍庫で保存する。使うときは自然・流水解凍し、加熱する。下ごしらえが済んでいるので、解凍さえすればすぐ調理できる。忙しいときにはありがたい。
漬けダレと一緒に冷凍すると、いわゆる「冷凍焼け」の防止にも役立つ。魚や肉を長期間冷凍庫に入れておくと、乾燥したような状態になりがちだ。表面をタレで覆うことで水分を保つ。ヨーグルト漬けだけでなく、味噌や別のタレでもよい。試してみよう。
(科学する料理研究家 平松 サリー)
[NIKKEI プラス1 2022年9月10日付]