省力化できるか基準に
「厚労省にいたころ、省力化になるかどうかをひとつの判断基準にしていました。時間、労力と得られる成果をてんびんにかけ、例えば資料づくりでは細かいところまで完璧にすることは求めない。私自身、子どもを抱えて時間がないなかで働いてきたので、自分の趣味を追求して部下に負荷をかけないという点は意識していました」
――どんなときにリーダーの醍醐味を感じますか。
「部下がうれしそうな顔をしているときです。育児・介護休業法を改正したとき、労使の調整もあり、部下たちは毎日深夜残業が続いていました。なんとか法案が通ると、今度は日本中の企業が就業規則を変え、自分の会社に制度をつくります。優秀な女性の部下が『法律をつくるってこういうことなんですね』と喜んでいたのが今でも忘れられません。法律をつくることの意味や権限を実感してくれたのがうれしかった」
「自分の部下と一緒になって喜ぶこと、現場の人が『あなたがつくってくれた制度でこんなに助かった』と言ってくれることが公務員はいちばんうれしいでしょうね。今、大きな組織を離れて思うのは一緒に喜んだり怒ったりする仲間がいるのはなんてすごいんだろうということです。一人では大きな荷物は背負えません。ですが、仲間と喜怒哀楽をともにしながらその荷物を背負っていけば、仕事は面白くなると思います」
(ダイバーシティエディター 天野由輝子)
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ベランダの花に映る心
ベランダで花を育てている。余裕をなくし、水やりを忘れると、すぐにしおれるので、自分の精神状態をはかるバロメーターになっているという。娘2人は独立し、孫が2人。孫と一緒に本を読んだり、料理したりする時間が楽しみだ。「忙しくて親業をちゃんとやれなかったのに、子どもが孫を連れて遊びに来てくれてありがたい」
料理するのも好きだ。何品もつくっていると、他のことを考えない。忙しい日々を過ごすなかで、いい気分転換になるという。
昇進は与えられた場所で一つ一つしっかりやる延長線上にみえるもの。ヒット商品を開発し、常に攻めの姿勢でいられたら素晴らしいですが、着実に仕事をこなしていくだけでも十分階段を上れるのではないでしょうか。
[日本経済新聞夕刊 2022年11月10日付]