甘くない梅酒で地域振興 福井のエコファームみかた

BENICHUは微糖の「20°」が一番の売れ筋という(福井県若狭町)

湖畔に実るぷっくり膨れた梅――。福井県若狭地方特産の福井梅が収穫期を迎えている。観光名所、三方五湖の近くに本社工場を置くエコファームみかた(同県若狭町)は、地元産を使った梅酒「BENICHU(ベニチュー)」を造る。「甘くない、大人の梅酒」のコピーが示す新感覚の梅酒を福井名物として広め、地元農業の活性化をめざしている。

ベニチューは、アルコール度数により「38°」と「20°」の2種が主力だ。38度は無糖で、梅と蒸留酒のみで製造する。オンザロックのほか、カクテルのベースとしても合う。同じ製法でより飲みやすくしたのが微糖の20度で、甘すぎずソーダ割りなどを薦める。いずれも梅のうまみと酸味、風味を最大限生かし、すっきりした味わいを楽しめる。

梅酒造りに使うのは福井梅の代表品種である「紅映(べにさし)」。熟すと日の当たった部分が紅色に染まることから名付けられた。種が小さく肉厚。酸味が少なめで、うま味成分やミネラルが豊富なため、まろやかな味に定評がある。梅酒や梅干しに適しているという。

福井梅の栽培は180年ほど前の江戸時代、現在の若狭町で始まったとされる。今も同町が生産の中心地で、三方五湖周辺などに梅林が広がる。紅映も生産量の8割ほどが町内で栽培されているという。エコファームみかたは2000年、梅の生産から加工、販売まで手掛ける企業として同町などが出資し設立した。

三方五湖の湖畔に広がる梅園。右はかつて梅などの農作業に使っていた船小屋

東京の企業が自社の焼肉店などで食前酒として出す梅酒の工場を引き継ぎ、当初は通常の甘い梅酒を生産していた。ただ、12年に経営を任された新屋明社長がセールスで試飲会などを回ると「梅酒は甘いから」と敬遠されることが多かった。

梅酒が甘いのは、浸透圧を利用して梅エキスを抽出するために、アルコールに加えて糖分を使うから。甘さが敬遠されるなら甘くない梅酒を開発しようと、新屋社長はアルコールのみでエキスを引き出すための試行錯誤を重ねた。

商品監修を依頼していたソムリエから、無糖梅酒として「新境地を開ける」と評価を受けるまでに2年ほど。14年にベニチューを発売した。エキスをしっかりと抽出するため、製造には通常の2倍、1年半ほどかかるという。

21年にラベルデザインを一新し、「紅をさす」からイメージした唇マークを前面に出した。また、手軽に飲める無糖梅酒のハイボールも商品化するなど取り組みを加速する。県内の土産物店や道の駅が主要な販路だが、東京や大阪、京都など大都市での営業も強化。東京の老舗ホテルのラウンジにも並ぶといい、徐々に成果が表れている。

24年春には北陸新幹線が同県敦賀市まで延伸される。新屋社長は「それまでに福井には高品質の梅と、その梅を使った梅酒があることを知ってもらいたい」と力を込める。その先に見るのは、後継者難など悩み多い地域農業に差す紅色の光だ。

(福井支局長 佐藤栄基)

[日本経済新聞電子版 2022年6月9日付]