ひらめきブックレビュー

算数が好きな娘を守れ 理系減らす男女平等意識の低さ 『なぜ理系に女性が少ないのか』

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小学1年生の娘に、好きな教科を尋ねたら算数だという。私は算数が苦手だったため内心驚きながらも、このまま算数嫌いにならず理系に進むのならそれはすてきだと考えていた。しかし、現実はそう簡単にはいかないようだ。

本書『なぜ理系に女性が少ないのか』は、日本の高等教育機関における理系分野の女性学生の割合が、OECD諸国(経済協力開発機構、38カ国の先進国が加盟)の中で最下位という事実を突きつける。成績が悪いわけではない。むしろ理科・数学の成績は男女ともに世界のトップクラスだ。ではなぜ、理系に進む女性が少ないのか――。自らも理系女性である本書の著者はこの問いに対し、先行研究も踏まえながら調査のメスを入れていく。着目したのは、学問へのイメージやジェンダー平等意識の低さといった日本の「社会風土」だ。

著者の横山広美氏は東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構副機構長・教授。現在の専門は科学技術社会論。

■看護学は女性向きと思われている

そもそも数学や物理学の能力は、男女差よりも個人差、環境の差が大きい、というのが大方の科学者の意見のようだ。「女子は文系で男子は理系だよね」という思考の型が男女の学力差の要因になることを示す研究もある。そこで著者は、学問に対するジェンダーイメージを数値化しようと試みた。

次のような方法だ。1000人強の男女に、「<〇〇〇>は女性に向いている」「<〇〇〇>は男性に向いている」という文言を提示し、〇〇〇には数学、物理学、化学、看護学、歯学、人文学、音楽など理系・文系含む18の学問を入れる。それぞれに対し「まったくその通りだと思う」〜「ぜんぜんそう思わない」までの5段階で評価してもらう。

結果は、女性に一番向いているのが看護学で、向いていないのが機械工学だった。男性は、逆に機械工学が一番向いている、と出た。これはイメージでしかないが、確かに看護師は女性、自動車整備士は男性が多いという現実の社会を思い浮かべると、何気ない偏見の影響の深さを実感する。

さらに、著者の分析から、ジェンダー平等意識(「女性の居るべき場所は家庭であり、男性の居るべき場所は職場である」などの15の設問で計測)が低い人ほど、看護学は女性向き、機械工学は男性向き、と見なす傾向が顕著であることが分かった。

すなわち、無意識の「ジェンダーバイアス」が学問領域にも浸透し、男性には理数系の学問を、女性にはそれ以外を選択させる風潮を生み出している可能性があるのだ。

■母親の影響も大きい

親の影響も見過ごせない。「数学的能力は男女の間で差がない」と考える母親の娘は、そうでない母親の娘より理工系への進学が多いという報告もある。母親もジェンダーステレオタイプから脱する必要があるというわけだ。

平等意識を持っているつもりでも「男らしさ」「女らしさ」を求める風土づくりに加担してはいないだろうか。娘の学問の自由のため、私自身が振る舞いを見直したくなった。

今回の評者 = 安藤奈々
情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。早大卒。

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