アトピー性皮膚炎、新しい薬が次々 かゆみ抑制に注目
皮膚の発疹が治まらず、激しいかゆみに悩まされるアトピー性皮膚炎。近年は国内で患者の増加傾向がみられる一方、新薬が次々と登場している。診療ガイドラインも新しくなり、治療の選択肢が増えてきた。
皮膚が赤くなる。ブツブツと発疹が出る。乾燥する。皮がむける。じくじくと液がにじみでる。アトピー性皮膚炎の症状は様々だ。原因も特定しにくく、アレルギーによる免疫異常のほか、皮膚への異物の侵入や過度な乾燥を防ぐ「バリア機能」の低下などが考えられる。
厚生労働省の患者調査によると、2008年には約35万人だったのが、17年には約51万人に増えている。子どもや若者に比較的多いとされ、年齢とともに症状がなくなる人もいれば、重症・慢性化する人もいるようだ。
治療に関しては近年、新薬が相次ぎ登場している。例えば皮膚の炎症に関わると考えられる物質(サイトカイン)が細胞に取り付くのを妨げる「抗体医薬」、そうした物質が細胞内で働くのを防ぐ「JAK阻害薬」がある。抗体医薬には注射剤の「デュピクセント」、JAK阻害薬には塗り薬の「コレクチム軟膏(なんこう)」、飲み薬の「オルミエント」などがある。
さとう皮膚科(東京・杉並)の佐藤俊次院長は「抗体医薬の登場はアトピー性皮膚炎治療の革命のように感じた。しかも新薬は次々と登場している」と話す。21年12月公表のアトピー性皮膚炎診療ガイドライン改訂版にも、こうした新薬を治療に活用する方針が盛り込まれている。
ガイドラインの作成委員長を務めた日本医科大学大学院医学研究科の佐伯秀久教授(皮膚科学)は「治療の選択肢は増えた。ただアトピー性皮膚炎治療はこれまで使われてきたステロイドやタクロリムス軟膏といった外用薬(塗り薬)と、スキンケアによる保湿が基本」と強調する。
薬を毎日規則正しく塗る治療を続けるのが重要になる。皮膚の状態がよくなって安定してきたら、薬を減らしたり、毎日ではなく間隔をおいたりする「プロアクティブ療法」に移行する。こうした治療によって、患者の多くは通常と変わらない生活を送れるようになるという。
もちろん生活改善は欠かせない。年齢を重ねると症状が軽くなる傾向はあるが、薬を減らすプロアクティブ療法を続けるためにも規則正しい生活が求められる。洗いざらしの清潔な肌着を毎日身に着け、十分な睡眠や室内の清掃、湿度の管理を心がけたい。
しかしなかなか治療の効果がみえないケースはある。そうした患者の治療に新薬が使われる例が出てきている。佐伯教授は「新薬をうまく使うことでステロイド外用薬の量を少なくし、患者や家族の負担を軽減できる」と期待を寄せる。ステロイドに対して不安を持つ患者や家族が積極的に治療に取り組むきっかけにもなっているという。
新薬の作用で注目を集めているのが「かゆみ」のコントロールだ。かゆみ止めに使われる抗ヒスタミン薬がアトピー性皮膚炎では効きにくいケースがある。無意識のうちに患部をかいてしまうと、皮膚のバリア機能が低下。炎症やかゆみを悪化させるサイトカインが放出され、さらに症状が悪化しかねない。
この悪循環を止め、バリア機能を正常に戻すのが大切になる。佐藤院長は「抗体医薬やJAK阻害薬を実際に患者の治療に使ってみて、かゆみを抑える作用が強いと感じている」と説明する。
佐伯教授は「炎症にかかわる物質の働きは次々と解明されてきている。現在開発中の医薬品も多くあるので、希望を持って治療を続けてほしい」と訴える。
(ライター 荒川 直樹)
[NIKKEI プラス1 2022年3月5日付]
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