ひらめきブックレビュー

遅延証明書は「手渡ししろ」 理不尽な苦情受ける駅員 『怒鳴られ駅員のメンタル非常ボタン』

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あなたが普段使っている最寄り駅は普段どれだけの人が日々行き来しているかご存じだろうか。駅によって異なるが、JR新宿駅のように都市圏のターミナル駅だと数十万人、23区内のJRの駅なら少なくとも数万人が利用している。そんな大勢の困りごとを一手に引き受けているのが「駅員」だ。

本書『怒鳴られ駅員のメンタル非常ボタン』はJRで2021年まで駅員として働いていた著者の体験記である。線路への落とし物や遺失物、乗客からの苦情や理不尽な要求、痴漢や暴行など駅で起こるトラブルに駅員がどう対応しているのかを、淡々と時にユーモアを交えて伝えている。著者の綿貫渉氏は多くのチャンネル登録者がいる交通系YouTuberとして活躍中だ。

■いいがかりに近い苦情も

うすうす想像がつくかもしれないが、駅員は乗客から日々苦情をぶつけられる。中には言いがかりに近いものもある。

例えば、朝のラッシュ時に遅延が発生したときの著者の体験。改札での対応やアナウンスの必要があり、遅延証明書を手渡しする人員が足りなかった。そこで箱に入れて改札付近に置いたところ、若い男性から、「駅員が一人ひとりに遅れを謝罪しながら配るのが筋じゃないのか」と怒鳴りこまれたという。

謝ろうとしても耳を貸さず、「お前らはおかしいんだよ」などと男性はヒートアップ。上司が警察に通報する事態となった。しばらくして落ち着きを取り戻したその男性は、精神的な障がいがあって我を忘れてしまったと弁解したそうだ。

他にも、乗客が車内に忘れたスマホが見つからなかったり、遅延のために終電への接続ができなかったりと、不可抗力の事態でも駅員は一方的に怒鳴られ、罵られる。駅員の方がむしろ苦情を言いたくなるようなケースもある。

酔客対応がその典型だ。「あそこに倒れている人がいます」と乗客から知らされ急行したところ、男性が酔っ払ってホームで寝ていた。しかも吐しゃ物まみれでズボンと靴を履いていない。著者はズボンを履かせ、汚れた乗客に肩を貸し、乗り換えの改札まで連れて行ったというから頭が下がる。

本書がこうしたエピソードを紹介するのは、誰かを糾弾しようとしているのではない。人手不足や時間的な制約、鉄道のルールなどの駅員なりの事情があることを説明し、乗客、すなわち駅を利用する私たちに理解を求めているのだ。

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