米ファスト・カンパニー

何年も店舗を閉鎖し続けるなど、ある意味、音沙汰のなかった有名書店チェーンの米バーンズ・アンド・ノーブルが、2023年に、30店の新規出店計画と新しいイメージをひっさげ、カムバックを果たそうとしている。

米バーンズ・アンド・ノーブルの書店の外観(出所/Shutterstock)
米バーンズ・アンド・ノーブルの書店の外観(出所/Shutterstock)

 大型書店チェーンをかつて展開していた米バーンズ・アンド・ノーブル(B&N)は、意外なニュースを発表して2022年を締めくくった。10年以上にわたって店舗を閉鎖し続けてきたが、23年は新店舗を30店デビューさせる計画だという。ジェームズ・ドーントCEO(最高経営責任者)は米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に対し、「我々は今、再び店舗をオープンし始めるだけの収益性と自信の両方を得た」と語っている。

 そしてB&Nのブランドが今、久々に脚光を浴びて輝く瞬間を謳歌していることは否定しがたい。かつての“ビッグボックス(大型店)リテール”の全盛期に、文化的には悪役を果たした1社が、どうしたわけか今や負け組発のヒーローとなり、真の書籍愛を象徴するシンボルとして歓迎すべきカムバックを果たしている。

書店文化の中の悪役、アマゾンの台頭で負け組に

 これは間違いなく、B&Nの新たな章の1ページになる。同社のルーツは19世紀後半のニューヨークの書店にまで遡るが、その名前はやがて、小さな書店を次々と廃業に追い込む利益第一主義の画一的メガストア文化と同義語になった。1998年に公開されたロマンチックコメディー映画「ユー・ガット・メール」に登場する強欲な書店チェーン「フォックス・ブックス」のモデルが明らかにB&Nだったのは有名な話だ。2008年ごろの絶頂期には、店舗数が全米でおよそ725店に上った。

 独立系書店を代表する全米書店協会(ABA)元会長は米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)に対し、「当時のB&Nはただ敵と見なされていただけではなく、法人の書籍販売について間違っていることをすべて遂行する存在であると認識されていた」と話している。

 もちろん、その後のストーリー展開は当時の書店業界が予想だにしない意外なものだった。米アマゾン・ドット・コムが前代未聞のリテールマシンに着実に姿を変え、家族経営の小さな書店のみならずB&Nも、そして最後には大型店のエコシステム(生態系)全体をも席巻したのである。08年ごろのあの全盛期を最後に、B&Nはその後150店舗を閉鎖し、さらに経営陣と戦略を繰り返し刷新し、19年には6億2800万ドル(約816億4000万円)でヘッジファンドに身売りまでして、経営破綻の恐れがあるとみられていた(ちなみにアマゾンの株式時価総額は現在、9700億ドル[約126兆1000億円]前後で推移している)。かつて巨人だったB&Nは、将来性が疑わしい負け組の役を割り当てられた。

新オーナーの下で原点回帰

 新しいオーナーの米エリオット・アドバイザーズは、英国の書店チェーン、ウォーターストーンズ(やはりエリオットが買収した企業)のCEOだったドーント氏をB&Nに招聘(しょうへい)することで新たにスタートを切ろうとした。ウォーターストーンズを破産の瀬戸際から救った功績が認められている同氏は、基本的に同じ作戦を用いると言った。

 特に顕著だった取り組みは、トップダウンの企業ビジョンを押し通して書店の現場を画一的なものにするのではなく、地元の書店として機能するよう、個々の店舗に自主性を与えることだった。ドーント氏は当時、B&Nの戦略は煎じ詰めると「本当に良い書店を運営する」ことだと話していた。

 そしてこれが、少なくとも一部の人によれば、まさにドーント氏がやったことであり、B&Nが今、書籍文化のヒーローになった理由だ。そして新生B&Nにさらに力強いお墨付きを与えたのは、大衆文化ニューズレター「オネスト・ブローカー」の発行人、テッド・ゴイア氏だ。「これがジェームズ・ドーントのスーパーパワーだ」と同氏は断言した。「彼は本を愛している」。

 他にもB&Nの変身に一役買ったサブプロットがいくつかある。ドーント氏がCEOに就いたのは新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的な大流行)対策のロックダウン(都市封鎖)が敷かれる少し前で、ロックダウンは明らかに大きな問題を生んだが、B&Nにチャンスももたらした。

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