現代の世の中は「映像」であふれている。動画共有アプリTikTok(ティックトック)やインスタグラムなどのSNS(交流サイト)やユーチューブには、日々膨大な数の動画が公開される。動画配信大手のネットフリックスやアマゾン・プライム・ビデオは定額料金で映画やドラマ、アニメが見放題だ。そんな中、倍速や10秒スキップなどの機能を使って映画やドラマを早送りで見る人が増えているらしい。
本書『映画を早送りで観る人たち』は、映画やドラマが早送りで見られている実態をリポートする。早送りで見る習慣のある人たちの話を聞き、彼らがそうせざるを得ない理由について時代背景などから考察している。著者の稲田豊史氏は1974年生まれのライター、コラムニスト、編集者。
倍速視聴は「生存戦略」
まず、映画を早送りで見る人が意外なほど多い事実に驚く。2021年に青山学院大学の2~4年生を対象に著者が行った調査では、回答者の9割近くが倍速視聴経験者だったという。こうした視聴スタイルが増えた理由の1つとして、著者は、現代人の多忙に端を発する「タイムパフォーマンス(タイパ)」志向を指摘する。てっとり早く何かを得たいと考え、興味のないシーンやセリフのないシーンなどを見て「無駄な時間」を過ごすことを嫌うのだ。
映画を製作する側にとっては許しがたい行為かもしれないが、早送りで見る側も切実だ。「あれ見た?」と問われたときに「見たよ」と応じて話題についていくために、膨大な数の映画やドラマを早送りで見る大学生がいる。彼らにとって倍速視聴は、コミュニティ内に居場所を得るための生存戦略だ。著者の分析によれば、もはや「映画の鑑賞」ではなく「コンテンツの消費」であり、「情報収集」モードで見ているという。
