羽田スカイブルーイング、ビールで全国つなぐハブに
羽田空港の隣にある複合施設「羽田イノベーションシティ(HIC)」(東京・大田)は自動車関連の研究所やライブホールが入り、様々な人々が行き交う。そこで店を構えるのがバル兼ビール醸造所の「羽田スカイブルーイング」だ。日本の空路のハブという土地柄らしく、各地とコラボした独自のビール造りに取り組んでいる。
醸造量は仕込み1回あたり230リットル前後。主力商品は地元と連携して造った4種のビールだ。
黒ビール「黒湯」は大田区内で出る天然温泉をモチーフに、大田浴場連合会と「風呂上がりに気持ちよく飲めるビール」を追求した。日本考古学発祥の地・大森貝塚の保存会が協力した「大森貝塚エール」には区内産ホップを使用。「天空」などにはかつて大田で養殖が盛んだったノリの粉末を配合している。
開店は2020年7月。運営する大鵬(東京・大田)の大屋幸子社長は「職人気質のこだわりというより、ガレージの中で勢いで仕上げる米国のような造り方を意識している」と話す。大手メーカーとの差別化もあるが、それ以上に「ビールは色々な人とつながれるツール。みんなで乾杯できる楽しさをつくっていきたい」からだという。
大屋氏は以前、企業保険の営業をしていた。営業先の縁で16年に区内の別の飲食店の運営を引き受けたのがビール醸造との関わりの始まりだ。店では製造を外部委託した独自ビールを出していたが、「もっといい物が造れるんじゃないか」と考えていた。ビールは注ぎ手や作り手の思いが味に出ると感じていた。
HICへの出店を機に醸造設備を入れ、自ら取り組み始めた。連携先は地元から全国に拡大し、独自のビール造りが広がりをみせている。
「春らしい香りを前面に出し、すっきり仕上げた」。3月下旬、HICで新しいビール「陽光桜エール」の完成式が開かれた。連携先は愛媛県東温市。同市出身の教師が開発した桜「陽光桜」の葉を使った商品で、鼻を抜けるほのかな桜の香りと酸味が特徴だ。
羽田スカイブルーイングではこのほか、福島県いわき市にあるワイナリーのブドウの搾りかすや、茨城県の「常陸秋そば」のそばの実を入れたビールなども手がけてきた。
新しい材料は事前に湯で煮出して風味や分量を確認するが、醸造は基本的に一発勝負。難しさもあるが、醸造担当の植浦恵介さんは「楽しんでやっている」と笑う。大屋氏は「せっかくの羽田という場所。地方の味も楽しんでほしい」と話す。地方との連携商品は店などで提供するが限定生産で、陽光桜も完売した。「また造って」と要望も来ているという。
夏には小型の醸造設備を導入した新店を区内に出す。企業や一般消費者から季節や結婚式の贈り物などでの独自ビール醸造の注文を受けるほか、各地のビール造りのコンサルティングもする予定だ。ビールが取り持つつながりをさらに広げていく。
(杉本耕太郎)
[日本経済新聞電子版 2022年4月28日付]
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