ひらめきブックレビュー

悪く考えすぎるクセを治す 「思考日記」の効用 『考えすぎてしまうあなたへ』

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親になってから心配することが増えた。特に子ども絡みの不幸なニュースを見聞きすると、もし同じ目に遭ったらなどと不安が募り、ぐるぐると思考が止まらなくなる。そして翌朝、睡眠不足で後悔するのだ。

同じような経験がある人にお勧めしたいのが本書『考えすぎてしまうあなたへ』(小谷七生訳)。考えすぎたり、心配しすぎたりする人向けに対処法をつづった一冊だ。認知のメカニズムを解きほぐし、思考が負のスパイラルに陥る仕組みとそこから脱するための実践的な手法をセラピー形式で教えてくれる。

著者のグウェンドリン・スミス氏は臨床心理学者で不安障害、気分障害の専門家だ。本書は認知行動療法の理論がベースになっている。

■「思考ウイルス」を発見

著者が示す対処法の中心は「思考記録」(思考日記)だ。直面した状況に対する自己の思考や感情の動きを記録するもので、まず「A状況」「B思考」「C感情・身体反応・行動」のように分ける。本書で挙げられている事例を簡略化すると、次のようなイメージだ。

A状況:職場で「リストラ会議」開催を知らせるメールがくる
B思考:「ヤバい。私はクビになるのだ。再就職できなかったらどうしよう」
C感情・身体反応・行動:動揺や悲しみ(感情)、心臓がドキドキする(身体反応)、行ったり来たりする(行動)。

記録を通じて自分の思考や感情がどう動いたかを把握すると、思考が飛躍したり、感情が極端に振れたりする部分が見えてくる。著者はこうした非合理な思考の流れを生む知覚を「思考ウイルス」と呼んで問題視する。この場合だと「私はクビになるのだ」以降の考えの中に、「破局視(物事を悪い方に拡大解釈する)」「自己関連づけ(関係ないのに自分に原因があると考える)」「運命の先読み(ネガティブな結果を予測)」といった思考ウイルスが潜んでいる。

こうした思考ウイルスに侵されていることを自覚し、自己の非合理に気付くことが思考記録の効能だ。

■ネズミの方が怖がっている

起こってもいない不幸を不安がる私も、運命の先読みや自己関連づけの思考ウイルスに侵され始めていたのだろう。ではここから、どうやって軌道修正すればいいのか。

著者が提案するのは「意味の再付与」という概念だ。例えば部屋にネズミが出たとする。「病気にかかったネズミに違いない」という「意味」を与えるとパニックになる。しかし、「体の小さなネズミの方が私を怖がっているはずだ」と違う意味を与え直せば冷静に対処できる。

大事なのは、合理的に考え、対象の意味を捉え直すこと。先の例では「リストラ会議のメールは全員宛なのだから、リストラの可能性は私以外の全員にもある」とでも考えれば、むやみにマイナス思考に陥らずに済むだろう。

考えすぎとはいわば思考が袋小路に入った状態だ。意味の再付与はそこに新しい視点を授けてくれる。心配性の克服だけでなく、アイデア創出に行き詰まった時にも、本書の手法は役立つのではないだろうか。

今回の評者 = 安藤 奈々
情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。早大卒。

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