ひらめきブックレビュー

カリスマ依存が招いた衰退 巨大企業GEの経営の内幕 『GE帝国盛衰史』

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米国を代表する企業のゼネラル・エレクトリック(GE)は発電所の巨大タービンから医療機器、金融商品まで幅広い事業を手掛けてきた。1980年代以降、同社をCEO(最高経営責任者)としてけん引したジャック・ウェルチ氏は、その優れた手腕から「経営の神様」と呼ばれた。しかし、実際には同社は多くの問題を抱えており、近年の経営は危機的な状態にあるようだ。

本書『GE帝国盛衰史』(御立英史訳)は、株主や顧客をはじめ多くのステークホルダーから絶大な信頼を集めていたGEが、現在進行中の経営再建に至る経緯が記されている。著者は米紙ウォール・ストリート・ジャーナル記者のトーマス・グリタ氏とテッド・マン氏だ。6年間にわたってGE幹部をはじめ数百人の関係者から話を聞き、同社の衰退の過程をつまびらかにしている。

■偉大過ぎる経営者の弊害

ウェルチ氏は81年から20年間のCEO在籍期間中に約1000件もの企業買収でGEを大きくした。さらに、金融サービス部門のGEキャピタルに注力した。不動産やビジネス機器を買い取ってリースする事業を始めたが、次第にレストランチェーンなどへの不動産関連の融資に比重が移り、最盛期にはGE全体の利益の半分以上を生み出すまでに成長する。しかし、その裏では複雑な会計処理による巧妙な業績操作が繰り返されていた。

ウェルチ氏が偉大な経営者として評価され過ぎたことの弊害もあった。取締役会の経営を監視する機能が働かなくなったのだ。自分たちの役割はウェルチ氏への「拍手喝采」だと言う取締役さえいた。ウェルチ氏は引退後も、マンハッタンの高級マンション、社用機の利用、専属シェフなど必要以上にコストのかかる特別待遇を受けていたという。「経営の神様」がいたGEという企業に対する絶対的な信頼は同社が衰退する原因となった。

■再建はいまだ道半ば

2001年にウェルチ氏の後任としてジェフ・イメルト氏がCEOに就任。イメルト氏はGEキャピタル依存体質の経営リスクを早くから感じていた。にもかかわらず、エネルギー関連の事業の長期メンテナンス契約にかかる経費を意図的に低く見積もることで利益を水増しし、未収収益をGEキャピタルに売却して水増しを隠していた。後にGEは証券取引委員会からこの種の会計手法について罰金を課される。世界的企業のCEOという重圧、華やかな生活や名誉が、見かけを繕う対応につながったのだろうか。

住宅ローン市場への投資とリーマン・ショック、石油事業での失敗など、普通の規模の会社なら破綻する大きな経営危機も、「不滅の」GEであれば乗り切れると多くの人が根拠なしに信じていた。しかし、経営の実態はあまりにも放漫で、経営陣はステークホルダーを裏切り続けていた。GEの再建はいまだ道半ばだ。

同社の「盛衰史」は、日本でもあった大企業の不正会計、自動車メーカーの燃費不正などを思い出させる。企業経営やコンプライアンスに関心のある人には必読の書と言えるだろう。

今回の評者 = 高野 裕一
情報工場エディター。医療機器メーカーで長期戦略立案に携わる傍ら、8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」のエディターとしても活動。長野県出身。信州大学卒。

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