コロナ禍で人工呼吸どうする 救命はAEDやマッサージ
心停止はいつどこで起きるかわからない。居合わせた人は救命処置に当たることになる。手順は大丈夫だろうか。今は新型コロナウイルスの感染対策にも気を配る必要がある。万が一に備え、基本を確認しよう。
突然の心停止の原因として目立つのが「心室細動」と呼ばれる不整脈。全身に血液を送り出す「心室」が細かく震え、その機能を果たせなくなり、数秒で意識を失う。数分で脳や全身の細胞に大きなダメージを受ける。一命をとりとめたとしても、重い後遺症が残る可能性がある。
総務省消防庁の2020年版「救急・救助の現況」によると、119番通報を受けてから救急車が到着するまでの時間は平均8・7分。心停止の状態になった人が助かるかはその間に居合わせた人の行動にかかってくる。とりわけ心肺蘇生と自動体外式除細動器(AED)による電気ショックが重要だ。
心肺蘇生は胸骨圧迫(心臓マッサージ)と人工呼吸の組み合わせが基本となる。ただ人工呼吸は訓練を受けるなどして技術を身につけ、取り組む意思もなければ実践するのは難しい。専門家による日本蘇生協議会(東京・渋谷)がまとめた「蘇生ガイドライン2020」ではコロナ禍での感染リスクを考慮し、一般市民の大人に対する人工呼吸は勧めないとしている。
京都大学健康科学センターの石見拓教授(予防医療学)は「胸骨圧迫のみでも、その後の社会復帰率はしない場合に比べておよそ2倍。AEDを用いた電気ショックもできれば、その確率はさらに高まることが多くの研究で示されている」と説明する。
救命処置の流れも押さえておこう。倒れている人を見つけたら、周囲の安全を確認して近づき、肩をたたきながら呼びかけて反応を見る。反応がないか、判断に迷った場合には大声で応援を呼び、119番通報とAEDの手配を依頼する。助けがいない場合は自ら動いて通報・手配する。さらに通常の呼吸があるかも確認。呼吸がない、または判断に迷った場合、直ちに胸骨圧迫を始める。
帝京大学医学部付属病院(東京・板橋)の坂本哲也病院長(救急医学)は「一般の人が反応や呼吸の確認に迷うのは当然のこと。119番通報をすれば通信指令員がやるべきことを指示してくれる。安心してほしい」と助言する。
胸骨圧迫はまず片方の手のひらの根元を相手の胸の中央に置き、もう片方の手を重ねて腕をのばす。さらに真上から垂直方向に力を入れる。ポイントは「強く、速く、絶え間なく」だという。胸が5センチほど沈む程度の強さで、1分間に100~120回のテンポを保つ。交代時の中断は最小限にとどめる。坂本病院長は「1回ごとに力を抜き、胸の位置を元に戻すことも重要だ」と指摘する。
コロナ感染対策としては胸骨圧迫を始める前に、倒れている人の鼻と口をハンカチなどで覆う。マスクをしていればそのままにして外さない。他にも反応や呼吸を確認する際、相手と自分の顔は近づけすぎない。処置を終えた後には速やかに手と顔を洗う。こうした点に注意したい。
AEDが届いたらすぐ電源を入れ、音声案内に従う。石見教授は「AEDの電気ショックが1分遅れるごとに救命率は10%低下する。素早く行動してほしい」と訴える。
実際に手順を体験しておくと、いざというとき動きやすい。消防署などが救命講習会を開いている。現地に出向くのが難しい場合も、日本AED財団(東京・千代田)ではオンラインで講習を企画しており、パソコンやスマートフォンを通じて参加できる。コロナ禍による変化を含め、最新情報を学んでおこう。
(ライター 田村 知子)
[NIKKEIプラス1 2021年10月2日付]
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