ひらめきブックレビュー

グローバル化の未来は 物流の歴史から考える世界経済 『物流の世界史』

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ロシアによるウクライナ軍事侵攻の影響で、日本や欧米企業のロシア工場の操業停止、輸出停止、飲食店や小売店の営業停止、さらに金融制裁など、物流や商流、金流が滞る事態が起きている。コロナ禍の混乱も続く中、グローバル化の未来はどうなっていくのだろうか?

本書『物流の世界史』(田辺希久子訳)は、この問いに手がかりを与えてくれる。物やサービスの流れを切り口に技術の発達や産業の変遷を辿りながらグローバル化の本質に迫り、このほど始まった「新しい段階」の行方を見通している。著者はロングセラー『コンテナ物語』(日経BP)を書いた米国の経済学者マルク・レヴィンソン氏。ジャーナリスト、歴史家としても活動する。

■張り巡らされるバリューチェーン

19世紀以降、ヨーロッパ列強がグローバル化を主導した。2度の世界大戦や大恐慌によって一時は停滞したが、各国の貿易障壁の引き下げ努力などによって、1940年代後半からグローバル化は再び進み、多くの国に経済成長をもたらした。そして80年代、富裕国で企業活動の規制緩和が進んだことを機に「第三のグローバル化」が始まったと、著者は位置付ける。

これをけん引したのは製造業だ。コンテナが普及し、輸送コストが劇的に下がった結果、工業製品は生産コストの安い国でつくった部品を別の国へ運び、組み立てるほうが効率的になった。グローバルなサプライチェーンの誕生である。思い浮かぶのは、一般的に1台約3万点といわれる自動車部品だ。1次、2次、3次……と連なる自動車のサプライチェーンを仮に線で表せば、地球上に陸や海をまたぐ無数の線が引かれることになる。

ただ、スマートフォンを例にとると、販売価格の過半を占めるのは半導体やレンズなどの部品ではなく、ソフトウェアやデザインなど「無形」の投入財の価値だという。モノではないものの価値の取引はバリューチェーンと呼ばれる。自動車のサプライチェーンの線にバリューチェーンの線も加えれば、地球は毛糸玉のようになるのかもしれない。

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