読書は世界を広げてくれる 人事院総裁・川本裕子氏人事院総裁 川本裕子氏

かわもと・ゆうこ 1958年生まれ。82年東京大卒、東京銀行(現三菱UFJ銀行)入行。マッキンゼー東京支社、早稲田大教授などを経て、2021年6月から現職。
小学生や中学生の頃に図書館にある本を読みつくしたという。

小さい頃から字を読むのが好きです。本はいつも世界を広げてくれます。『スプーンおばさんのぼうけん』『ライオンと魔女』『飛ぶ教室』とか、「シャーロック・ホームズ」「ドリトル先生」のシリーズもたくさん読みました中学では特にフランソワーズ・サガンが好きでした。朝吹登水子さんの翻訳は文章がすごく美しく、瀟洒(しょうしゃ)で孤独な雰囲気。パリの風景の描写も非常に印象的でした。中2くらいで作品を分かった気でいましたけど、あれから自分の感性的な部分はどれだけ成長したかなと思うこともあります。

サガンの『熱い恋』は、原題が「La Chamade」です。朝吹さん自身があとがきに「降参の合図に打ち鳴らす太鼓の音という意味で、この物語を巧みに表現している」と書いておられる。販売戦略があるのかもしれませんが、あの頃から本や映画などの邦題が変えられるのがすごく気になっています。翻訳本は好きですが、だんだんと原書で読むようになりました。

高校は通学時間などを利用して文庫本を1日1冊といった感じで、様々なジャンルを読みました。英語の先生を囲むサークルでは、ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』とか、けっこう難しい原書の本を読んでいました。

人の特性や社会が変化していく要因を考察した本に興味がある。

山本七平さんは『「常識」の研究』で日本を「論争なき社会」と言っておられます。「原則を明確にしての対決よりも、無原則の全員一致を求める」「経済的合理性の問題を、道義もしくは倫理の問題にすりかえる」と。1980年代のはじめに、情報過多は独善的になると指摘された。何回か読み返しても、その時々の問題を的確に述べられている。『「空気」の研究』もそうですが、日本の組織が抱える問題点に通じる見方です。

大学では社会心理学を学びました。エーリッヒ・フロムの『自由からの逃走』は教科のリーディングリストにあって印象に残っています。欧州でルネサンス以来、人間を従来の束縛から解放してきた自由が、逆にナチズムのような全体主義のイデオロギーに人々を向かわせてしまったわけです。

自由の重みに耐えかねてしまう人間、民主的な社会でもファシズムの温床になってしまう。歴史を動かす力はどのようなものかを考えました。すごく面白くて時々読み返します。

大学時代は出版社でアルバイトしました。その出版社は鎌田慧(さとし)さんや立花隆さんが寄稿されていた。有名作家のスタッフのさらに下請けのような形で、調査報道の下調べを徹底してやるわけです。ある人について書くなら家系から洗っていく。ファクトファインディングの手法を学び、調べていく過程が面白くて感銘を受けました。その経験は後にマッキンゼーでの仕事にもつながりました。

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