水素利用はここまできた 未来のエネルギーの現在地『【カーボンニュートラル】水素社会入門』

温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目指す動きが、世界で活発になっている。クリーンなエネルギーとして注目される一つが、水素だ。2021年夏の東京五輪・パラリンピック大会でも、聖火の燃料としての利用や、選手村の燃料電池活用などが話題になった。

しかし、「水素社会」が来るといわれても、正直ピンとこない。本書『【カーボンニュートラル】水素社会入門』は、水素の性質や安全性など基本から説き起こし、「水素社会」の最前線と可能性を紹介する。著者の西宮伸幸氏は国立研究開発法人である科学技術振興機構(JST)革新的水素液化プロジェクトプログラムマネジャー。水素の製造・利用技術を産学官で研究する一般社団法人、水素エネルギー協会の前会長を務めるなど、水素研究の第一人者だ。

「エネルギーキャリア」としての可能性

水素は、石油や石炭などの1次エネルギーとは異なり、電力や都市ガスなどと同じ2次エネルギーだ。つまり、つくらなければ使えない。そして、水素の利用には「つくる」「ためる・運ぶ」「つかう」の3ステップが必須となる。

水素は、水を酸素と水素にわける電気分解などでつくることができる。その際、化石燃料を使うと二酸化炭素(CO2)が発生するため、太陽光や風力など再生可能エネルギーを使ってつくるのが理想だ。つくった水素は、ボンベに詰めたり、パイプラインを使ったりして運ぶ。よく知られる使用法は、酸素と反応させて電気を発生させる燃料電池だろう。家庭用のほか、燃料電池を使った車、鉄道、船舶、航空機などの開発が進んでいるという。

水素は、クリーンさに加えて、「エネルギーキャリア」(運搬手段)としての可能性に期待できる。長期にわたって大量に貯蔵でき、長距離輸送が可能で、必要なときにエネルギーに変換して利用できる。蓄電池でも似たことはできるが、大量貯蔵が難しく、長期貯蔵では自己放電によるロスが大きくなってしまう。その点、水素なら、例えば、年中強風が吹くアルゼンチンのパタゴニアで風力発電した電気を水素に変換し、日本など電気の大量消費地に運んで使うことも可能だ。つまり、水素は再エネのグローバルな流通を可能にする。

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世界が注目する水素利用
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