東京の水道を支える株式会社 「民営化」とは一線画す『東京の水を守る』

海外で水道水を飲むには、十分な注意が必要だ。その点、日本の水道水は安全性やおいしさの面で高い水準にある。しかし近年、人口減少、インフラの老朽化、デジタル化など大きな環境変化を受けて、全国の自治体が運営する水道事業の経営状況は厳しさを増している。

そんな中、注目されるのが東京の水道事業だ。2020年4月、東京都水道局から水道管路の維持管理などの業務、料金の計算などの業務をそれぞれ受託していた2つの法人が合併し、「東京水道株式会社」が発足した。約8割を都が出資する東京水道は、都水道局と一体となり、環境の激変に対応しようとしている。

本書『東京の水を守る』は、東京水道の初代社長・野田数氏の著。同社設立の経緯と現状についての解説のほか、著者と識者や社員との対談などがまとめられている。

首都の水道を支える高い技術

毎日使う水道だが、意外に知らないことは多い。例えば東京の水道は、1898年に西新宿に淀橋浄水場が建設されて以来120年以上の歴史を持つ。1970年代には、23区に多摩地域の水道事業を加える、都営水道一元化・広域化が決定された。現在、給水人口は1360万人、管路延長は2万7000キロという世界有数の規模を誇る。

先述の合併によって誕生した東京水道は、水道水源林の保全管理から料金徴収、コールセンターの運用、システム管理まで水道業務を包括的に担える水道トータルサービス会社である。鉄道をはじめとする首都圏の他のインフラと共通するところだが、地震対策などの技術に優れ、漏水率は世界トップレベルの約3%。漏水調査技術は、機械による計測データに加え、専門技術者が「音聴棒」と呼ばれる器具で音を聞き分けて漏水箇所を絞り込み、効率的な修繕対応につなげるという匠の技に支えられている。

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