2022/3/13
2021年に完成したアードベッグの新蒸留棟(英北部スコットランドのアイラ島)

アードベッグの蒸留器は蒸発したアルコール分が集まる上部に、直角に折れ曲がった細い管がついている。重い成分がこの部分に落ちて釜に戻る。フルーティーな軽いアルコール分をより多く取り出す仕組みで「スモーキーだが甘みもある原酒を実現できるのです」。精留器を備えるのはアイラで唯一だという。

2020年には「ウィー・ビースティー5年」を中核の商品群に加えた。小さい怪物を意味する新製品は、アードベッグの売りであるスモーキーさをさらに深掘りした一品だ。代表的な「10年」と比べると磯の香りがより強く、鮮烈なピート香が口中を漂い続ける。

スモーキーさを極めたアードベッグの「ウィー・ビースティー5年」

開発のきっかけは、究極的にスモーキーなものを飲みたいという消費者の欲求を理解したことだった。使われる原酒の最低熟成期間を表す年数表示は「5年」と、スコッチウイスキーとしては珍しく短い。熟成期間が短いほどスモーキーさを出せることに着目して若さを押し出した。

ウイスキーの需要増に応える新蒸留棟が21年春に竣工した。蒸留器はそれまで2基だったが、味や質が変わらないよう精巧にコピーした真新しい4基を構えた。原酒の生産能力は、年140万リットルから最大280万リットルに倍増した。22年は200万リットルをつくる計画だ。

旧蒸留棟には役目を終えた2基が静かにたたずんでいた。未定だが将来再び活躍する可能性もあるそうだ。

海に面する蒸留所の周囲には時折、磯の香りが漂っていた。従業員はわずか約30人。世界を魅了するウイスキーは、自然豊かな静寂の中で仕込まれ続けている。

(ロンドン=篠崎健太)

[日本経済新聞電子版 2022年3月3日付]