米ファスト・カンパニー

端末などのハードの研究・開発を継続するコストは、確かに高くつく。しかし、米アマゾンの端末事業が抱える問題は、単なるコスト高というよりもはるかに根が深い。事業が肥大化する一方で、機敏に動くスタートアップと競争しなければならない状況にある。

音声アシスタント「Alexa」を搭載したスマートスピーカー「Amazon Echo」シリーズの1商品(出所/Shutterstock)
音声アシスタント「Alexa」を搭載したスマートスピーカー「Amazon Echo」シリーズの1商品(出所/Shutterstock)

 米アマゾン・ドット・コムのアンディ・ジャシーCEO(最高経営責任者)が2022年11月下旬、人員整理を行うことを発表したとき、1つのチームをやり玉に挙げた。音声アシスタントの「Alexa(アレクサ)」や電子書籍端末「Kindle(キンドル)」、スマートスピーカー「Amazon Echo(アマゾン エコー)」、タブレット端末「Fire(ファイア)」、防犯カメラ「Ring(リング)」、家庭用ロボット「Astro(アストロ)」といった商品を担当する端末・書籍部門だ。

 ジャシー氏は従業員に宛てたメモで「デバイス・ブック事業全般で多くのポストを廃止する難しい決断」について説明した。このニュースに先立ち、アマゾンは社員の漸進的な採用を凍結すると発表していた。合計すると、同社は全社従業員の3%、およそ1万人を削減するとみられている。

 アナリストらは、アマゾンの端末・書籍部門は消費者にまだ受け入れられていない実験的な商品が含まれるため、人員削減の格好の標的になると話している。また、アマゾンが掲げることで有名な「顧客フライホイール(弾み車)」を動かすことにこれらの端末が役立っているのかどうか、Echoのような最も人気の高い端末をマネタイズできるのかどうかについても、疑問視している。

 アマゾンにコメントを求めたが、返答がなかった。

肥大化した端末事業、市場シェアは高くても赤字

 アマゾンの端末・書籍部門は何年もかけて成長した結果、無秩序に広がる巨大事業になった。米ニューヨーク・タイムズ紙によると、同部門はほんの数年前の18年の段階で、1万人のエンジニアを抱え、年間50億ドル(約7000億円)の赤字を出していた。

 一部の指標で見ると、スマートホーム市場を制覇しようとする大きな取り組みの一環として進められた積極的な端末進出は、大成功だった。例えば、米調査会社コンシューマー・インテリジェンス・リサーチ・パートナーズ(CIRP)の調査では一貫して、アマゾンがスマートスピーカー市場を支配していることが分かった。CIRPが実施した22年6月の調査では、過去1年間にスマートスピーカーを購入したという回答者の69%がAmazon Echoを買ったと答えた。これに続いたのが「Google Home」(市場シェア25%)で、米アップルの「HomePod」(5%)と「Facebook Portal」(1%)は大きく水をあけられていた。しかもCIRPの調査によると、Amazon Echoを所有している人の半数近くが2台以上持っている。

 だが、アマゾンはただEcho端末を販売しているだけではない。新世代の商品を発売するたびに、目がくらむほどのバリエーションのEcho、「Echo Dot」「Echo Dot Kids」を売り出す。アマゾンの端末カタログでは、それぞれのカテゴリー(例えばスマートスピーカーなど)に、想像をはるかに上回る数の端末が掲載されている。この種の“複雑さ”のために、設計、製造、販売のコストはどうしても高くなる。

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