続・文系マーケターのための統計入門 第1回

近年、マーケティングでは経験や直感に頼るのではなく、データを基にした「統計」による分析の重要性が高まっている。そこで日経クロストレンドでは2022年夏、法政大学経営学部の西川英彦教授による特別講義として、特集「文系マーケターのための統計入門」を掲載した。その講義では「平均と標準偏差」「仮説検定」「相関分析と無相関検定」「カイ二乗検定」「t検定」について学んだ。本特集では続編として、発展的な分野に取り組む。扱うテーマは「回帰分析」「分散分析」「因子分析」「コンジョイント分析」の4つ。どれもマーケターなら基本的な知識は身に付けておきたい手法だ。講義を始めるにあたり、夏のおさらいを含め、マーケティングの実務における統計知識の必要性について西川先生に解説してもらう。

知れば知るほど面白い統計の世界。マーケティング施策の精度を高めるためにも、基本的知識は身に付けておきたい。最初は難しく感じるかもしれないが、特集を読み進めれば大まかなイメージはつかめるようになるはずだ (画像提供:Iamnee/Shutterstock.com)
知れば知るほど面白い統計の世界。マーケティング施策の精度を高めるためにも、基本的知識は身に付けておきたい。最初は難しく感じるかもしれないが、特集を読み進めれば大まかなイメージはつかめるようになるはずだ (画像提供:Iamnee/Shutterstock.com)
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夏の7つの講義をざっとおさらい

――いよいよ冬の集中講義が始まるわけですが、実は夏に西川先生の講義を受けるまでは、文系の私にとって複雑な数式や記号、グラフが出てくる「統計」は大の苦手でした。

西川英彦教授(以下、西川) 特に文系のビジネスパーソンには、そういう方も少なくないですね。

――なのに前回の講義でいくつか基本的な統計用語を学んだだけで、チンプンカンプンだった「統計的手法」というものが、身近に感じられるようになりました。これまで敬遠していた「データ分析」の世界が、全く違って見えてきた気がします。

西川 特別講義で取り上げる検定や分析は、マーケティングに有効なデータを解析する上で最低限必要となる基本的な統計的手法です。中でも夏の講義で解説した「平均と標準偏差」「仮説検定」「相関分析と無相関検定」「カイ二乗検定」「t検定」は基本中の基本ですから、それらを学んで、大まかなイメージさえ持てれば、統計によるデータ解析がいかにマーケティングの実務に役立つか、文系のビジネスパーソンも実感できると思います。

法政大学経営学部の西川英彦教授。前回に引き続き統計の“超初心者”に向けて可能な限りかみ砕いて解説をしてもらった
法政大学経営学部の西川英彦教授。前回に引き続き統計の“超初心者”に向けて可能な限りかみ砕いて解説をしてもらった

――確かにそうですね。最初の「平均と標準偏差」の講義では、売り上げのデータを分析するとき、なぜ「平均値」ではなく、わざわざ複雑そうな「標準偏差」を使うのか、納得できました。標準偏差で「ちらばり」を考慮すれば、実務に大きく役立つことに気づけたのは大きかった。

西川 標準偏差は、他の検定や分析といった統計的手法を理解する上でも必須の基礎知識ですから、最初の講義で取り上げました。

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――検定のプロセスには必ず「帰無仮説」が出てきますが、以前は意味が全く分からなかった。なのに「仮説検定」の講義を受けたら、何とか理解できました。同時に、ほとんどのマーケティング論文に「p値(有意確率)」が出てくる理由も分かりました。

西川 p値は文系の人にとって難易度の高い統計用語ですが、検定や分析の結果が統計的に「有意」か、つまり「意味がある」と言えるかどうか判断するときの基準となる数値ですから、これを理解しておかないと話が始まりません。

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――次の「相関分析」では、気温と商品の売り上げなど、組み合わせたデータの間にどれくらいの関係性があるのか検証しました。解説に使用されたSNSの投稿数とフォロワー数の相関分析の事例も分かりやすかったですね。

西川 2つのデータの間に関係性があるかどうかを調べるのは、マーケティング分析の基本と言えます。

――この相関分析で関係性の度合いを具体的数値で算出した後、必ず「無相関検定」でその確かさを調べるという手法は、統計の素人だった私には新鮮でした。

西川 この相関分析と無相関検定を連続で講義することで、単に相関係数を「記述」するだけでは駄目で、「仮説検定」をしなければならない理由を理解しやすかったのではないかと思います。

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――マーケティングの資料を読んでいると「クロス集計表」に出くわすことが多いのですが、「カイ二乗検定」の講義でその理由が分かりました。実務の現場で頻繁に行われるABテストは、結果をクロス集計表にまとめて、カイ二乗検定で分析していたのですね。

西川 カイ二乗検定はクロス集計表を使って簡単にできる便利な統計的手法なので、マーケティングの実務で活用される頻度も高い。

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――最後の「t検定」は、これまで読んだ論文の多くに出てきましたが、やっとその重要性が分かりました。マーケティング調査の結果でよく目にする「旧製品と新製品の効果の違い」とか「自社と競合他社との顧客満足度の差」などを表す2つの棒グラフがあっても「その差に統計的な意味があるのか、t検定してp値を調べなければ分からない」というのは、まさに目からウロコでした。

西川 以前はグラフを使って「見た目の印象」だけに頼るアバウトな比較データも少なくありませんでした。最近は少しずつですが、p値を添えた統計的根拠に基づくグラフや表を紹介するケースも見られるようになってきました。資料のグラフの下にp値が入っているだけで、ずいぶん印象が変わるものです。統計の重要性を理解している上司やMBA(経営学修士)を取得しているような相手から、「分かってるな」と信頼を得られるので格好いいでしょう。(笑)

――格好いい、は大事ですか?

西川 もちろんです! 続編に入ってどんどん難しくなってきます。どうせ勉強するのなら、そうした効用もモチベーションのアップにつなげてください。

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