ひらめきブックレビュー

コロナワクチン開発、逆境乗り越えた女性研究者の半生 『世界を救うmRNAワクチンの開発者 カタリン・カリコ』

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いよいよ我が国でも新型コロナウイルスワクチンの3回目接種が始まった。各国が急ピッチで進めた今回のワクチン開発であるが、実はその舞台裏に一人の女性研究者が立役者として存在している。

その人物こそハンガリー出身の女性研究者、カタリン・カリコ氏。米ファイザーとワクチンの共同開発を行っている独バイオ企業ビオンテック社の上級副社長を務めるが、研究費が確保できなかったり、時に降格されたりと不遇な時代を長く過ごしてきた。本書『世界を救うmRNAワクチンの開発者 カタリン・カリコ』は、本人や恩師などへのインタビューを通じ、数々の逆境を乗り越えてきた彼女の半生に迫ったものだ。

著者はジャーナリストの増田ユリヤ氏。元NHK記者でわかりやすく的確な時事解説で知られる池上彰氏とともにニュース解説を行うなど、リポーターやコメンテーターとして幅広く活躍している。

■カリコ氏の信念が不可能を可能にした

新型コロナワクチンのうち、mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンは従来のものとは異なる新しい技術でつくられている。その仕組みについて、著者がわかりやすく説明しているところも本書の読みどころの一つだ。それによると、mRNAとは、タンパク質を作るもとになる遺伝情報のこと。つまり、ウイルスのタンパク質のもとになるmRNAを体内に入れることで、免疫反応を導くというのがカリコ氏が開発したワクチンの仕組みなのだという。

mRNAは通常、注射などで体内に注入すると異物として認識され、拒絶反応を引き起こす。このため、医薬品などへの実用化は困難といわれてきた。だが、カリコ氏は決してmRNAの研究をあきらめなかった。「実用化して病に苦しむ人たちに届ける」。彼女の目標は常にそこにあったからである。そして共同研究者とともに、mRNAに「シュードウリジン」という化学的な工夫を施すことで、拒絶反応を抑えることに成功した。

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