ひらめきブックレビュー

「火山」としての富士山を考える 噴火被害に備えを 『富士山はいつ噴火するのか?』

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

2022年7月、鹿児島県の桜島が噴火し、一部の近隣住民が避難する事態となった。日本には活火山が100以上もあり、世界全体の約7%を占めるという。「日本一の山」である富士山も活火山だ。では、富士山が桜島のように噴火することはないのだろうか。噴火するとしたら、いつ、どのくらいの規模なのか。

こうした問いについて解説するのが、本書『富士山はいつ噴火するのか?』である。火山や噴火の仕組みに加え、活火山としての富士山の歴史や考え方を、ときにユーモアを交えて紹介する。基礎的な知識に加え、万一の際の備えも学べる入門書だ。著者の萬年一剛氏は神奈川県温泉地学研究所の主任研究員で、火山地質や降灰シミュレーションを専門とする。

災害には常に備えるべき

活火山とはおおむね過去1万年以内に噴火した火山、または活発な噴気活動が認められる火山を指す。03年に火山学者の代表者たちと気象庁が決めた。しかし、実際のところ、それぞれの活火山が将来噴火するかどうかは誰にもわからないという。

地震が起きると火山活動との関係について報道されることがあるが、地震による揺れや地殻変動が地下のマグマだまりに影響を与え、噴火にも影響することはあるようだ。富士山は1707年に大噴火を起こしているが、噴火の約50日前に宝永地震と呼ばれる大地震が起きた。ただ、地震の後に噴火が起きないことや、地震はないのに火山が噴火することもある。結局、「災害はいつ起こるかわからない」と考えて常に備えるべきだと、著者は説いている。

富士山噴火によるインフラ被害

驚くのは、現在の人類の知見や最先端の科学をもってしても、火山の将来の噴火の時期や規模は「ほとんど予想できない」という事実だ。火山の沈降や隆起の定量的な観測をはじめ研究は進められているのだが、観測記録はせいぜい100年から200年。富士山が最後に噴火したのは300年以上前なのだから、予想が難しいのもうなずける。地球の複雑さに、科学はまだ追い付いていないということだろう。それでも、噴火した場合のシミュレーションは行われ、ハザードマップが作られている。富士山の場合、研究の進展、コンピューターや地図の精度向上などを反映して2021年に改訂版が公表された。

首都・東京も社会インフラへの被害が想定される。降り積もる火山灰によって、航空機や電車の停止に加え、多くの自動車は東名高速道路や付近の一般道を走れなくなる。物流が滞れば食糧が不足する。水道用の取水ぜきが火山灰で埋まれば水も使えなくなるかもしれない。備蓄をはじめ、これまでにも言われてきた災害への備えを今一度確認したい。

高度経済成長期以前、伊勢湾台風をはじめ台風の犠牲者数は4桁が珍しくなかった。しかし先人の努力によって近年は100人未満がほとんどだ。火山の噴火についても被害をより縮小するために、富士山を題材に学んでみてはいかがだろう。

今回の評者 = 前田 真織
2020年から情報工場エディター。08年以降、編集プロダクションにて書籍・雑誌・ウェブ媒体の文字コンテンツの企画・取材・執筆・編集に携わる。島根県浜田市出身。

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。