ひらめきブックレビュー

それでも未来に「希望」あり 動物行動学者が示す根拠 『希望の教室(THE BOOK OF HOPE)』

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あなたは未来に「希望」を持っているだろうか。ロシアによるウクライナ侵攻や新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)には終わりが見えず、地球温暖化対策も十分に進まない。このままではひどい未来になると、絶望的な気分になってはいないだろうか。

どれほど困難な状況でも、希望はあると教えてくれるのが本書『希望の教室(THE BOOK OF HOPE)』(岩田佳代子訳)だ。著者の一人ジェーン・グドール氏は1934年ロンドン生まれの動物行動学者、環境保護活動家で、野生のチンパンジーの生態調査の功績が知られる。もう一人の著者、ダグラス・エイブラムス氏は作家、編集者。

本書は2人の対話がベースで、エイブラムス氏の問いかけにグドール氏が自身の体験を織り交ぜながら応じていく。チンパンジー研究、家族との関わり、自然とのつながり、環境保護活動などの多くのストーリーを通じて、希望について思索を深められる。

■「行動する」ことが希望につながる

希望を信じる根拠として、グドール氏は4つを指摘する。「人間の知力」「自然の回復力」「若者の力」「人間の不屈の精神力」だ。これらの根拠をグドール氏は数々のエピソードで裏付けていく。

なかでも、チンパンジーの研究や保護に関する話はグドール氏ならではだ。一例が「自然の回復力」にまつわるもの。87年にアフリカでチンパンジーの個体数が減る原因を調査したところ、生息地周辺に住む人々の貧困が原因の1つだとわかった。まともな病院も学校もない環境で、困窮した人々は森林を破壊して農業を行い、チンパンジーの母親を殺して赤ちゃんをペットとして売るなどして暮らしていたのだ。

そこでグドール氏らは、病院や学校の整備に加え、貧困層に無担保で少額融資する「マイクロクレジット」を立ち上げて住民への経済的支援を行った。その上で、植樹や水源保護も進めた。現在では、植樹で回復した森に生態系が戻りつつあり、人々は森や野生動物を守りながら農業を行っているという。これは、SDGs(持続可能な開発目標)の考え方そのものだろう。そしてこのエピソードは希望が「行動」から生まれることを教えてくれる。

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