写真撮影や国道復旧、「DEATH STRANDING(デス・ストランディング)」では謎のブームが起きている。ゲームクリエイターである小島秀夫氏のロングインタビュー、ゲームに込められた思いとコロナ禍のコミュニケーションの変化を聞いた前編に続き、後編ではゲーム内で起こっている謎の現象やこれからのゲームづくり、さらには小島氏の今後について聞いた。

前編に引き続き、ゲームクリエイターでコジマプロダクション代表の小島秀夫氏にインタビュー
前編に引き続き、ゲームクリエイターでコジマプロダクション代表の小島秀夫氏にインタビュー
▼前編はこちら 小島秀夫氏ロングインタビュー 模索する新しい「つながり」

――「DEATH STRANDING(デス・ストランディング)」内では、多くの人が他のプレーヤーの行動に対して「いいね」をしていますね。(インタビュー前編でも少しお話しいただきましたが)次に来る人のために自然に何かをしようというプラスの感情が生まれているように見えます。

小島秀夫氏(以下、小島) 人に褒められて嫌な人はいませんよね。デス・ストランディングではそのシンプルな考え方を組み込んだだけなんです。

 例えば、川がある場合。自分が渡るために橋をかけますよね。まずは自分のために行動するのが基本。別に人のためになどと考えて橋をつくるわけではありません。

 ですが、橋をつくって渡り、その後再び橋に戻ってきたときに他のプレーヤーから「いいね」が付いていたりします。はじめは自分のためでしかなかった行動が、誰かの助けになる。そして、見知らぬ人の役に立ったと分かると、うれしい気持ちになりますよね。そうなると、見えない誰かに対しても、思いやりのある行動を自然に取れるようになると思います。

自分の置いた道具や設備が、他のプレーヤーの助けになる。感謝の気持ちは「いいね」で“返信”
自分の置いた道具や設備が、他のプレーヤーの助けになる。感謝の気持ちは「いいね」で“返信”

 この相手を思いやるコミュニケーションが、現実世界に広がっていくことも期待していました。実際、プレーヤーからのお便りの中には、例えば「UberEatsの配達の人にお礼を言いました」「Amazonの荷物が届いた際にお礼を伝えました」といった声も、たくさんありました。これは、荷物を運ぶ、物資を届けるというデス・ストランディングのゲーム性の影響もあるとは思いますが、バーチャルでの体験がリアルなコミュニケーションにいい影響を与えているとも考えられます。

 人は自分一人で生きているわけではありません。一人暮らしでかつ他の人との接点が少ないという人でも、荷物を頼めば誰かが届けてくれるし、外を歩けば当たり前のように道路が整備されています。夜遅くコンビニに行っても当たり前のように店員さんがいて、商品が買えます。火事になれば消防車も来てくれます。常に誰かの仕事に助けられています。サービスを受けることに対して、「お金を払っているから当然だ」といった意見を見聞きすることも少なくありませんが、デス・ストランディングをプレーした後に行くと、いろいろなものやことの印象がちょっと変わるんですよね。

――デス・ストランディングならではのコミュニケーションの一つと言えるかもしれませんが、印象的なのが多くのプレーヤーが協力して国道をつくったり補修したりして、復旧させて盛り上がっていることです。国道を復旧するには、たくさんの素材が必要で、人々が協力して集めている姿も見られます。配達そっちのけで、国道をつくり続けている人もいますよね。さらに、復旧された国道には、たくさんの「いいね」も集まっています。

小島 ここまで盛り上がることは想定外です。いまだに不思議です。道をつくっても一銭にもならないんですから。僕のゲームスタイル的には、国道復旧は他の人に任せてしまいます。

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