ひらめきブックレビュー

弁当箱炊飯器が大ヒット サンコーの家電が売れる理由 『スキを突く経営』

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昨年の猛暑のある日。ガジェット(目新しい電子機器)好きの知り合いが「ネッククーラー」なる商品を紹介してくれた。首にかけて頸(けい)動脈あたりの肌を先端の金属プレートで直接冷やす。通電すると片面が冷たくなる半導体素子が使われている。屋外でも安定した冷え加減で便利な一品だった。

開発したのはサンコー(東京・千代田)という社員数約50名の企業だ。その後もバケツサイズの洗濯機や極小食器洗い機といったユニークな商品を発売して注目していた。サンコーを2003年に起業した社長の山光博康氏は「世界最小の家電メーカー」を称し、「面白くて役に立つ」をキーワードに独自製品を開発し、20年の売上高は44億円に達した。山光氏が斬新な商品を次々と生み出す組織の秘密と独自の経営理念をまとめたのが本書『スキを突く経営』である。

■現代社会のニーズをくみ取る

サンコーのヒット商品に「おひとりさま用超高速弁当箱炊飯器」がある。外見は長方形のモダンな弁当箱だが、電源につなぐと14分で0.5合のご飯が炊ける。一人暮らしの人が総菜を買って帰宅してセットすれば、着替えたりテレビをつけたりしている間にご飯が炊きあがる。16万個売れたそうだ。

開発の背景には、「おひとりさま」への深い洞察がある。ご飯を茶わんに盛るのは面倒だが、炊飯器に箸を突っ込む食事は味気ない。1人でご飯を食べる人の気分や雰囲気を大切にしたいと考え、「炊飯器」と「弁当箱」の2つを融合させた。これなら、素早く炊けて気分良く食べられ、洗う手間も少ない。ニーズをくみ取る視点の鋭さに驚かされる。

現代は「満たされた」時代のため、困りごとが見つけにくく、家電はむやみにハイスペック化する傾向がある。だがサンコーは、典型的なユーザー像を詳細に設定し、細かなニーズの発掘に成功しているようだ。そして、既存製品の「スキを突く」形で解決策を具現化する。ほかにも、シワを伸ばす乾燥機「アイロンいら~ず」や「自家製焼き鳥メーカー」など消費者の興味を引き、しかも使ってみると実用的な商品を次々と生み出している。

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