ひらめきブックレビュー

答えのない時代を楽しむ 「示唆」を使った思考技術 『「答えのないゲーム」を楽しむ 思考技術』

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現代は「答えのない」時代と言われる。キャリアにしても、かつては大手企業に就職することが「正解」だったが、今や起業や副業、遠方からのリモート勤務など働き方の選択肢は増え、何が「正解」とは言いにくい。企業の生産活動においても、「高品質・低価格」だけが正解ではなくなった。あらゆる面で試行錯誤の時代に入ったように見える。

正解のない状況を「答えのないゲーム」ととらえ、それを楽しむための思考技術を「ゲームの戦い方」として紹介するのが本書『「答えのないゲーム」を楽しむ 思考技術』だ。後半では、出題される問題を解くことで思考技術を実践的に学べる。

著者の高松智史氏は、NTTデータ、ボストン・コンサルティング・グループに勤務した後、「考えるエンジン講座」を提供するKANATAを設立し代表取締役を務める。著書に『変える技術、考える技術』などがある。

■「示唆」を導く2つの口癖

一般的に企業が新規事業を検討する際、事業の強みや弱みなどを分析する「SWOT分析」などのフレームワークによる分析が用いられるが、これは誰がやっても同じ結論になりがちだろう。しかし、本書にある思考技術を使えば、発想が多様に広がりそうだ。

思考技術の1つとして、著者が重要と説くのが「示唆」である。ここでいう示唆とは、「ファクト(事実)」に基づき、そこから「言えること」を示すものだ。

例えば、「友人がバッサリ髪を切った」とする。これは「ファクト」だ。その時、「イメチェン?」「失恋?」などととっさに考える。これが示唆である。示唆を導きやすくするために、2つの「口癖」が紹介されている。1つ目は「見たままですが」。上の例でいえば、「見たままですが、髪を切ったね」と、ファクトを認識するのだ。その上で、2つ目の口癖「何が言えるっけ」を、自分の中でつぶやくと、「失恋したのかも」と示唆が引き出される。

■複数の示唆を出して議論する

最近気になった「家庭用電気料金値上げ」のニュースで、どんな示唆が出せるか考えてみる。「何が言えるっけ」を考えると、「省エネ家電はニーズが高まるかも」、また「企業用電気料金も値上げするかも」、さらに「電気使用量が多い業種の経営環境が厳しくなるかも」といった示唆が導き出される。

この思考技術に慣れると、様々なファクトから無限の示唆を感じ取れるようになるらしい。意思決定が求められる場では、ファクトから多くの示唆を出し、議論することでよりよい選択に近づけるという。議論を前向きに展開することが、答えのないゲームを楽しむポイントだろう。気まずくならないよう、議論を円滑に進める思考技術も紹介されている

私も思考プロセスを鍛えるための問題に挑戦してみた。提示される「人数」「対象年齢」「特徴」などの条件から、カードゲームのルールについて「仮説」を立てるものだ。連想ゲームのように発想が広がって面白かった。答えのない時代は、肩肘張らずに自由に思考を広げて楽しむことが、何より重要なのかもしれない。

今回の評者 = 倉澤 順兵
情報工場エディター。大手製造業を対象とした勉強会のプロデューサーとして働く傍ら、8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」のエディターとしても活動。東京都出身。早大卒。

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